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第1話(第1章)

【一日目】

 大騒ぎになったのに乗じてトルカから脱出したのはいいが、これといって行くあてはなかった。今更王都(おうと)に行っても最悪また処刑場に行くはめになりそうだ。

 そんなこんなでトモノヒ教の影響がない方へない方へ流れていったら、イガウコという街についた。さすがに表立ってトモノヒ教の教義に反することはしていないが、だいぶ緩いところだということで、ここに拠点を構えることにした。


 ここでは遺跡の異端技術が割と積極的に取り入れられ、それは俺たちの知る日本文化があちこちに現れていることを意味する。イガウコの第一住人に、前に知り合った元・神父様/現・科学者の話をすると、あっさり信用され、彼らが日本家屋を再現しようとしていた場所に案内された。街外れの森の中で古文書に書かれた図や絵をもとにやってみたが、やはりそれだけでは限界があり手詰まりになったそうだ。


 俺は早速古文書(俺から見れば図書館にあるような古ぼけた本)の解読を申し出、条件としてここに住まわせてもらうよう交渉した。あっさり受け入れられ、なかばモニターとしてここを無償提供してもらった。


 そこらへんの切り株に腰かけ古文書をパラパラめくっていると、そばの茂みが揺れた。振り返ると、すっかり見慣れた赤い髪と服の女の子が無言で顔を出していた。かと思えば、マオが近づいたのに気づいてすぐに逃げた。


 マオ曰く、小さな赤い女の子の名はロミーネ。自分のあとを追ってついてきたらしい。「追い払いましょう」というマオの申し出に、何もそこまでと止める。まあ多分害はないだろうし。

 とりあえずこんな感じでイガウコに暮らしてからの様子を日記に残しておこうとこれを書いている次第である。



 

【二日目】

 大枠が完成していたのと、遺跡発掘者(あのギャルいうところの科学者)が結構いたので、新居は俺が古文書片手に指示をして形にはなった。細かいところは追々やっていくとして、これで当座は生活できるというわけだ。


 完成記念ということで科学者達と宴会していると、樹に隠れて物欲しそうにこちらを見ているロミーネを見つけた。取り皿に山盛りの料理をのせて、ここと市街地を隔ててる森の境に置いておいた。

 数分後、きれいに食い尽くされたのを見て、新しい料理の山を用意する。これを五往復したところで、料理はなくなり宴会もお開きとなった。

 


 

【三日目】

 イガウコはもともとトモノヒ教の影響があまりなかったので、トモノヒ教が禁忌とする遺跡の発掘はなかば黙認されていた。そのため、この街でそのまま科学者になったのも多ければ、異端技術のせいで迫害されてきた者がよその街からイガウコへ流れてきたパターンも多い。結果、科学者はそこいらの街よりずっと多い。


 彼らによると、トモノヒ教を率いていた総教皇の訃報により、科学者はもっと増える見通しらしい。つまり、遺跡を発掘する人間が増えるのだから、遺跡から取れる遺物も増えるわけだ。

 なんでそんな話を彼らが俺にするかというと、俺にそびえ立つような古文書の山を押し付けてきたからである。古文書とはすなわち俺とミツルが過ごした時代の本であり、この世界でそういった本が読めるのは俺たちだけ。そして解読に積極的なのは俺だけとなると、そりゃこうもなるわな。


 科学者の中にもネットワークがあるようで、今まで誰も読めなかった古文書の翻訳者の登場は、(またた)()に他の街の科学者へ伝わったようだ。イガウコで発見されたもの以外の遺物や古文書までこっちに輸送されてくる流れになってるらしい。とんでもない作業量なのはわかりきっていて、少し逃げたくなる。

 縁側でぼーっと現実逃避してると、草むらにロミーネがいた。飯を渡すとモグモグ食べた。



 

【四日目】

 とりあえずこの家の建築周りは当然として、調理技術の本を解読することにした。食事は大事だ。この世界に来てからろくなもんを食っていない。食材へのアプローチは手間と時間がかかるので、まずは効果のでやすい調理から改善していこうと思う。


「うまい飯をたらふく食わせてやるからな」

 縁側で料理本を開いた俺に、隣に座って串焼きをかじるロミーネはうなずいた。

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