魔族
【デュランダル視点】
さて、あの追放屋になった小僧。
確かシンとか言ったか。あいつは無事に森から脱出したらしい。これで数十年ぶりに四職が揃ったことになる。時空間を操る追放屋の力はなかなか素質を持つものが少ない。
奴が生まれながらに持っていた収納というスキルは希少な空間系スキルの一種だ。その才能の片鱗が少し垣間見えていたと言うことか。
まぁ、それはいいとして。
あいつ凄まじく弱かったな。レベル5とかじゃなかったか?
賢神様に認められたはいいものの、死ななきゃいいんだが。
レベル5ってちょっと外出したら死ぬレベルじゃないのか?俺がレベル5の頃って覚えてないけど。
まぁスキルもあるし何とかするだろ。とりあえず酒でも買いに行こうか。
ってアレ?あの鎧を着ている連中は騎士団か?前から向かってくる。こんなところを通るなんて珍しいな。
まぁいい、とりあえず酒だ。
「そちらの方」
正面の女騎士が誰かに声をかけている。
誰にだ?俺は後ろを振り向いた。
「いや、こんな場所で後ろに人はいませんよ。貴方です」
ああ、俺か。
俺の後ろに誰かいるかと思った。
「何か用で?」
「このあたりのタウンフィッシャーという町に魔族が潜伏している可能性があるのですが、何か聞いたことはありますか?」
「タウンフィッシャー?ああどうだったかな?ちょっと覚えてませんな」
うん、何か気になる出来事があった気がしたが忘れた。
「そうですか。実は我々はそこに向かっている最中でしてね。賢者デュランダル殿」
なんだ。俺を知ってるのかよ。
「何だ、俺と知ってて声を掛けたのか。悪いが本当に覚えていない。家に帰って記録を見たら思い出すかもしれんが」
「いえ、結構ですよ。そこまでして頂く訳にもいきませんしね」
「そうかい、討伐頑張ってな。サラ=エカテリーナ団長」
「ふっ、やはり私のこともご存知でしたか」
「あんたみたいな有名人、知らんかったら俺の稼業はやってられんよ。御武運を」
俺は手を振るとそのまますれ違って行くことにした。
それにしてもタウンフィッシャーか。何か気になることがあった気がするんだが忘れたのかな?
あれ?そもそも何で俺はここを歩いてるんだっけ?
ああそうだ。酒だ酒。きっと酒を買いに行く、ということを忘れていたんだ。
あれ?本当にそうか?なんか重要なことだった気もするんだが。まぁいいや。とりあえず思い出すまで酔っ払おう。
そういやあの追放屋どこに飛んだんだっけ?まぁいいや。きっと思い出すさ。
【シン視点】
しばらくして、マリエルはその町を去ることになった。
正直別れは名残惜しかったが仕方がない。
人それぞれ事情があるからな。
俺は町の出口付近までマリエルを見送りに行った。
「シン、いろいろとホントにありがとう」
「いや、こちらこそ」
「コレを受け取ってほしいんです」
そう言ってマリエルは、俺に何かを手渡してくれた。
「こ、これは」
この場面に似つかわしいロマンティックな何か、かと思いきや何とそれは……骸骨の目に宝石がついた人形であった。正直怖い。
マリエルはどうしても俺を闇路線に持ってゆきたいのか?
……。
「あ、ありがとう」
俺は何とかその言葉を捻りだした。
「い、いやわかってますよ。もうちょっとセンスのいい、この場に似つかわしいものを渡すべきだっていうのは。ただ、これが私が持っているもので一番貴重なモノなんです。持っていてくれたら、きっとシンを守ってくれます」
そ、そうか。
まあ、素直に受け取ろう。
「ありがとう。大事にするよ」
という感じでマリエルは去って行った。
俺たちはしばし、別の道を歩くことになった。
俺は当面、その町に滞在することにした。資金には余裕ができたし。とりあえず俺は近くの草原でモンスターを見つけて心臓抉りの練習をしたり、もう少し距離を伸ばした転送をやろうしてユルユルダラダラと訓練をしていた。
その日、俺は訓練に疲れて昼寝をしていた。
『調子はどうだい?シンくん』
また、この犬頭かよ。ってイカンな。俺の直属の神様にこういうこと思っちゃ。
俺の思考を読んでいる恐れもあるし。ここは無難に。
「頂いた力を生かそうと頑張っております」
「賢明だね」
このコメントが俺の発言に対してなのか、考えなのかなんとも言えなかったが、俺はとりあえず聞きたいことを聞くことにした。
「あのー俺は追放屋なんですよね?」
『ん?今更何言ってんの?ボケたの?』
ぐぬぬ。
「いやね、モンスターの心臓抉ってばっかりなんで」
『ああ、そりゃあ君の転送がまだ未熟だから、そういう使い方しか出来ないからだよ。本来の転送はそういう使い方じゃない。もっと追放っぽく使うのさ』
なるほど。
「まぁ使い慣れるという意味で間違ってはいないわけですか」
『ああ、そうだよ。ただ、そうだね。もうそろそろ追放の仕事もしてもらうことになるかな。たぶん因果の流れからしてもね』
「因果の流れ……ですか」
『そう。そしてその因果の流れの先に彼らがいる』
彼ら?
『追放したものは追放される定めの中にいるのさ』
俺がアベルとゲレタとレイチェルの顔を思い浮かべた後、賢神様はその犬の頭の仮面の下で笑ったように見えた。
・・・・・・・・・・・
俺はこの町に一週間程滞在していることになる。
変化点としては、そうだな。
ギルドの人達と顔馴染みになってきたくらいか。
支部長のヨハンさんは、やはり俺に親切にしてくれたし、受付嬢のエレナも一生懸命だが、たまに天然な感じで可愛かった。いい雰囲気の支部だな、とそう思っていた。
とはいえ、そろそろ次のプランを考えないとなぁ。
ずっとここにいるわけにもいかないし。
と、そんな折、町の空気が変わったのを感じた。
ん?なにかこう……
町がザワザワしている。
その騒がしい中心であろう場所へ向かう。
そこにいたのは鎧を着た連中20名程度だ。
っておいおいあの鎧。まさか、王立騎士団か?
王立騎士団。女神に認められたエリート戦闘者のみがなることができる国や民を守るための組織。冒険者の強さが玉石混交でゴロツキ同然の者も多いのに対し、全員が全員戦闘のプロだ。
その代表であろう女騎士団長と、ギルドの支部長のヨハンが何かを話している。
「いやね、そんな形跡はなかったですよ?」
ヨハンはそう訴えていた。
「うーん、確かに決定的な確証が得られていないのは事実です。ただモンスターの動きとか魔力反応を確認したところ、そうした可能性が統計的にかなり高いかな、ということで」
女騎士団長がスラスラと語った。
「ないと思いますがねえ」
ヨハンは首を傾げている。
「そういう訳で、我ら20名で、しばらく町の近くで宿営所を張らせて頂きたいんです。ご迷惑はおかけしませんので」
「わかりました構いませんよ」
支部長ヨハンは笑顔で同意した。
なるほど、これから騎士団が張り込むのか。
「何があったんですか?」
俺は隣にいた人に聞いた。
「いや、聞いてたらどうやらこの町に魔族が潜んでいる可能性がある、ってことらしいよ。そんな訳ないと思うけどねぇ」
魔族。
邪神の眷属にして正体不明の存在。言葉を喋る知能を持ったモンスターとも、邪教に堕ちた人間の行き着く先とも、或いはその両方とも言われている。
確実に言えることは、数は少ないが魔法の能力が高く、強大な力を持っているということ。人間よりも長寿であること。そして、残忍かつ冷酷な傾向があるということ、だ。魔族が出てきた時点でBランク以下の冒険者は、基本的に役に立たず、危険だから、関わることはできない。
『ああ、戦闘のプロとか騎士様とか言ってもお粗末なもんだねえ』
っておい、また急に出てきたな賢神様!!
「え?なにがですか?」
『人に変身するタイプの魔族かもしれない、って考えないのかな?最近の騎士団のレベル低下も著しいねえ』
「!!」
確かに……正体不明の存在なのだから。そういう能力があってもおかしくはないか。
「賢神様、そんな魔族がいるのですか?」
『ああ、いるよ』
マジか。
『で、僕がこれから求めることはわかるかな?』
イヤな予感がした。
「まさか……魔族討伐……ですか?」
『魔族討伐、でも大筋間違っていないけど、正しく言うならこの町からの魔族の追放、だね。特に今回の相手は』
「……ちょっと難易度が高すぎませんか?僕はDランク冒険者ですよ。魔族が出てきたらBランク以上の冒険者の仕事のはずなんですが」
『まあ、何はともあれやってみてくれよ。報酬は弾むからさ』
えええ。無理やりだな。
俺が魔族の相手をするだと?
この俺が?
『君がやらないと皆死ぬよ、多分』
いや、おかしいだろう。それはSランク冒険者に対して言うことじゃないか?
に、しても人に成り代わっているのか隠れているのか分からんけど、対象がわからんかったらどうしようもない。
探知魔法で見つけられたら一番良いけど、魔族の隠蔽を上回る探知スキルなんてそうそう持ち主はいない気がするし。
結局、騎士団が張り込む、というだけで特に何事もなくこの町の日常は続いた。皆、生活があるのだ。仕方のないことだ。正直、そんな訳ない、と思っている町民の方が多い気もする。
そんなこんなで3日が過ぎた。
ほら、何もないじゃないか。賢神様も騎士団も大げさだねえ。
と、思っていた次の日にやはり悲劇は起きた。
ヒロイン(候補)が去ったり、出てきたりしています。
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