パーティー追放
「お前はここで追放だ。ここで置いてゆく」
それは凶悪な魔物が多数生息する、とある森での出来事である。当初はそこにある何かの神様を祀った祠の封印の調査、が目的の筈だった。
目的地に着いた時点で発せられた、剣士であり、パーティのリーダーであるアベルのその唐突な言葉に僕は耳を疑った。
「ちょ、ちょっと待って。追放ってどういうこと?」
そんな言葉しか俺は言うことができない。
と、言いつつもああまたか、と思っている自分が悲しくなる。
「いや、だってあなた弱いし。」
パーティーの魔法使いレイチェルが、そういう口調で俺に冷酷に告げる。
「いや、俺ってそういうポジションじゃないはずでしょ?収納魔導とかタイミングを見計らったアイテム使用とかでパーティーをサポートする役回りだからさ」
自分で言ってて悲しくなってくる。
要は俺はパシリのようなものだ。その自覚はずっとあった。
「あのさあ、そんなもん無くてもオレらは全然やっていけるんだよ。大した貢献度もねえし、命はってもいねえくせに権利主張ばっかりしてんじゃねえよカスが」
槍使いのゲレタが俺を口汚く罵った。
貢献度。確かに俺の戦闘における貢献度は高くないのかもしれない。
だが、それを言い出したらコイツの素行もパーティーの名誉を貶めていると俺は思っているが、何も言わなかった。
「ああ?何睨んでんだよこのカスがよ!」
と、瞬間、とてつもない風切り音と共に何かが僕の顔面を強い力で打った。激痛。
それは、ゲレタの槍の柄であった。
「むかつくんだよ、無能なくせによ、テメエは。!!!ヒャハハハ!!!」
さらに繰り出される拳と蹴り、槍の柄での殴打。
ドキャッ、バキッ、メキャ、ごしゃ、とぶつかったり潰れたりするありとあらゆる音が自分の体内より聞こえた。
たぶん数分間はその暴行が続いたと思う。
そして、俺は動けなくなっていた。
「・・・結局、冒険者は実力主義の世界なんだよ。ここはお前の居場所じゃない」
アベルはそう言うと興味を失ったかのように俺を見た。恐ろしいまでに冷めた目。
アベルは基本的に冷静だが上昇志向の塊のような男だ。使えると思えば重用するし、そうでなければ切り捨てる。
必要なときには、とんでもなく冷酷非道になるときもある。今までは、まぁまぁ使える奴だと思わせるように頑張ってきたから俺にその冷酷さの矛先が向いていなかっただけだ。
そう、コイツも結局はこういう奴だということはわかっていた。
「ああ、だが証拠は消さないといけないな」
そういうとアベルは剣を抜いた。
って、え?
おいおい待て待て、そこまでするのか?
ゲレタは楽しそうに歪んだ笑みを浮かべている。
レイチェルは、無表情だ。
逃げないといけない、だがその前のゲレタの攻撃で俺の手足は折られており、身体がいうことを効かない。
俺は焦った。
「じゃあな」
アベルがそう言った後、ざくっと衝撃が俺の胸を貫いた。
〜〜〜
俺は多分もうすぐ死ぬ。
とりあえず死ぬ前に過去を振り返っておこう。
今回のケースは酷いケースだが、実は俺が追放されるのは初めてではない。
まず、俺が6歳のときだったかと思う。俺が生まれた国から追放された。
そう、俺はこの国の生まれではない。
外界から隔絶された島国から追放された。その国は今俺がいる国とは全く違う、文化や統治の体系をしている国だ。魔導という概念すらなかった。
まあ、あんまり覚えてないけど、その国の何らかの勢力争いに巻き込まれて流刑、みたいな形だった気がする。
その後、俺はこの国に流れ着いた。
流れ着いた場所をもっと細かく言うと、流木の町、と呼ばれる貧民街だ。
そこの住民はみんなゴミを拾ってそれを換金して生計を立てている人々だった。
俺はそこの住民に命を救うところまではしてもらった。
で、その後は一緒にゴミ拾いをして生きてきた。
その後、なんやかんやあって10歳のときにまた、その町を追放された。
別に特に悪いことはしなかったと思う。普通にゴミ拾いもちゃんとやってたし。
その後は、どうしようもないので生きるために冒険者、と呼ばれる職業を目指すことにした。
なぜかというとそれくらいしかこの腐れ人生から逃れられそうな仕事が見つからなかったからだ。
だが、問題として俺は戦う素質がなかった。
魔導も剣術も習ってきたわけではない。
唯一、優れていた点としては、珍しい収納魔導の素質があったので、それだけを売りに何とかやってきた。
だがそれだけだ。50立方センチの収納なんて、ちょっとした荷車を買えばそれにすら劣る。
そんなこんなで、俺は物珍しさでパーティーに雇ってもらえることはあったものの、
すぐにクビになって追放させられた。
冒険者になってからは今回で3回目だ。
だが、殺されるのは初めてだな。当たり前だが。
ああ、ひどい人生だった。
もし生まれ変われるとしたら、なにか特別な力をもって生まれたかったものだ。
てか、追放されるならまだしも、殺す必要あった?
いや、ない。
まあしゃあない。
このまま死のう、死んでこの世界の一部になるんだ。
ああ、意識が遠のいてゆく、飛散せよ、俺!ってなかなか遠のいてゆかないな?
なんでだ?むしろ冴えてきている気がするぞ。
うーん。俺は目を開く。
と、その瞬間、そこにある神様を祀ったであろう祠が発行した。光に包まれる。
〜〜〜
あれ?ここはどこだ?
俺は目を覚ました。
霧に覆われた場所だ。
2メートル先も見えないひたすら濃い霧だ。
俺は起き上がると、とりあえず前に向かって歩いた。
前から誰かが呼ぶ声がした気がしたからだ。
呼ばれた方向に向かって歩く。
そしてそこに着くと霧が晴れ、高台の海が見える場所にいた。俺を呼んだであろう者も目の前にいる。
「あのー?すんません、俺を呼びました?」
俺は声をかけた。
目の前の俺を呼んだであろう人物は、普通ではなかった。というか人・・・なのか?
この世界の服装とはまた違う、体型が出ない服装で身長からしても男女の判別がつかない。そして何より異端なのは犬の頭の仮面を被っているところだ。その仮面から長い後ろ髪が出ている。
「ああ、来てくれたんだね。良かった。待っていたよ」
その仮面の人物は、やはり男とも女とも判別し難い、中性的な声で俺にそう言った。
「ここはどこですか?俺は森にいたはずなんですが」
俺は恥ずかしいと思いつつも、その犬の仮面の人物に話しかけた。
「ここはとある高台だよ。森からは僕の力で転送させてもらった」
とある高台であることは見ればわかるんだけどなあ、と思いながら転送?というところにひっかかりながら俺は会話を続けようとした。
「あなたはどなたですか?」
「僕は賢神という神だ。知らないと思うけど」
知らない。この世には女神様と邪神しか神はいないはずだけどな。
胡散臭いことこの上ない。
「まあ、胡散臭いし犬仮面と話す意味も分からないと思ってるだろうけど、話を聞いてくれないか?にもメリットがあるはずだからね」
コイツ俺の心を読んだのか!?と一瞬思ったが多分この状況で思うことは皆同じだろう。
「メリットとは何でしょうか?賢神様」
「さすが、その年でも苦労しているだけあって理解と切り替えが早いね、シン=アマミヤくん」
「!!」
俺は少し驚いた。俺の名前を知っている。というか久しぶりに名前で呼ばれた。
「君に職業をあげるよ」
「どういうことでしょう?俺は冒険者ですが」
俺は試しにしらばっくれてみた。
「ふふ、わかっていながら僕を試そうということかい。面白いね。冒険者っていうのは職業じゃないだろ?どちらかというと生き方に名前をつけて権威付けしたもの、だ。職業ってのは、剣豪とか槍使いとか魔導士とか、そういうとこだろ?一般的に。で、その定義で言うと、君は適職なしだったと思うんだけどな。確か」
ぐっ、その通りだ。ちゃんと知っていやがる。
これは俺の弱さの原因の一つだ。
何故か知らないが、俺には就ける職業がない。基本的に何か女神から、何かの職業を与えられる筈なのだが、それがないのだ。
だからこういう方向性で強くなる、というものが見えないのだ。
俺を殺したアベルは剣豪だ。だから剣の道を究めてゆくことができる。
俺を殴ったゲレタは槍使いだ。だから、槍の技能に優れている。
俺は・・・
「その通りです。職業がないことは俺の弱さの理由の一つです」
俺は正直に言った。
「そうだろ?で、そんな君にピッタリの職業があるんだ。世界でほとんど君しかなれない、女神なんかには与えられない職業だ。これを受けてくれれば、君に今までとは違う人生が切り開かれることを保証するよ」
「受けなかったら?」
「受けなかったら、うーん、どうしようかな?このまま死ぬか、リセットしてあの場で無傷で復活か、どっちかかな」
おいおい酷いな。死ぬのはゴメンだし、リセットしてあの場で無傷で復活しても俺一人で森を抜けられるとは到底思えない。
「謹んで頂いたご提案を受けさせていただきます」
俺はそう言うしかなかった。
そう言ったとたん、その犬の仮面が何故か邪悪な笑みを浮かべた気がした。
仮面のくせに。
そして俺は、光に包まれた。
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