異世界サラリーマンの昼食は今日もおにぎり
ドラゴンも喜んで飛ぶような透き通った青空の下。
権田万太郎こと私は、ボスゴリラパラケッツァさんの握ってくれたコムツのポリポリ煮おにぎりを頬張っていた。
え? 何言ってるか分からないって?
私もよく分からないよ。なんだろうな、コムツって。どんな煮方したんだろうな、ポリポリって。
とにかく、今日もいい天気だ。
「ピャオー、モッスルケバブジャボイ!」
「ああ、どうも。いい天気ですねぇ」
「ベストバルハッチャケテブル!」
たまたま近くを通りがかったバッスルホメロチョイチョイさんが、挨拶をしてくれた。明るいドバム族である。
申し遅れたが、私は日本の東京から異世界に飛ばされたしがない一サラリーマンだ。大抵異世界送りとなった者はチート能力を持てるらしいが、私の場合は皆が何を言っているかを理解できる能力だった。
それ異世界飛びする人全員持ってるやつだと思う。
でもいいのだ。お陰で意思疎通ができ、食うに困らぬほどの生活を送っている。ピカピカ石を求めているダッノー族の爺さんには、その辺に落ちている石を擦って丸くして渡してやる。茶色い草を求めているバショイボカド崖の妖精さんには、その辺の草を引き抜いて枯らしてから渡してやる。こうする事で、ボスゴリラパラケッツァさんの好きなヒョーロレイヒの花が手に入り、彼女の作るおにぎりを手に入れられるのだ。
え? 何を言っているか分からないって? そのくだり数行前に終わったぞ。ここまで読んだならもう腹を括ってくれ。
ともあれ、何故かこの異世界にはおにぎりが存在しているのである。つまり米がある。稲作がある。釜もある。多分だけど、数百年前に一人の農民がここに飛ばされてきたんじゃないかな。苗とか背負って。
そしてまた旨いんだこれが。ふっくらしていて艶やかで、ほんのりとした甘味があって。
具もね、お米を邪魔しないんだよ。なのにしっかり味はあるの。絶妙なハーモニー。毎回何使ってるかだけは分かんないけど。
「ソシャメプレトケソレネチカ……」
「あ、ありがとうございます」
ボスゴリラパラケッツァさんが飲み物をくれる。その際、鱗だらけの指に触れてしまった。
途端に彼女は顔を赤らめ、逃げ出してしまう。残された私は、呆気に取られながらもおにぎりをもう一口齧った。
……このまま、ここに永住するのもいいかもしれないな。
見上げた青い空は、私の心に賛同するように虹色に輝き始めていたのであった。