1
彼と僕が都会で会うのは、あたかも都会の中の孤独なテロリスト二人が会うかのような風情があった。
彼は長身痩躯で、かっこよかった。彼は僕よりも身長が10cmも高かった。二人で並んで歩くといつも見上げる格好になった。
その頃、彼は宗教について思いを凝らしていた。「神はいると思いますか?」 彼が出したそんな質問、口調が今も頭に浮かぶ。僕はその頃、哲学に凝っていたので、違う事を言った。
「神はいるとは思わないけど、神を想定する事は大切だと思う。つまり、思考の構造として…。カントはそんな風に考えたと思うんだ。つまり、『物自体』は神だから、神に到達できない人間という理念があって、それが彼の哲学を作り上げた…」
「でも、神を感じる事はないですか?」
彼はあくまでも直接的な神についての話をしたかったのだ。彼は都市の中でどこから見ても、今風のかっこいい、洗練された青年に見えたが、話す事は古風ですらあった。
「神を感じる?」
「ええ。例えば、山の頂上に登って、眼下の風景を見下ろす時、僕は神の存在を感じるんです。神の息吹というようなものを…。逆に、地下鉄の駅のベンチに一人で座っているとむしろ、神の不在を感じる。そこでは自然は死んでいる。生きていない。まわりは銀色の、灰色の世界だ。制服着た駅員と、無機質な人々が並んでエレベーターに乗っている…。僕はそこに神を感じない。だけど神を感じる時もある。そういう時は…あるでしょう?」
僕らは人混みの中を歩いていた。東京の真ん中だった。僕はいつも思うのだが、東京はどうしてこんなに人が多いのだろう。彼らはそれぞれに生の目的を持っているのだろうか?
「牧田さんの言っているのは神性という事かな? …確かに、そういう感興というか、感情はあるよ。例えば、花を見て、その造形に驚くといったような…。でもその事と神の存在はまた別だと考えている。あくまでもこちらの、主観の感情であって、神がいると思った事はない。そういう絶対的なものは想定していない。そんな経験はないな…」
「僕はそこに神を感じるんです。山田さんと違って」
牧田は天を見上げた。まるでそこに何者かが住んでいるかのような眼差しだったが、そこにはビル群によって鋭く切り取られた灰色の空しかなかった。
「神は存在するんです。存在しなければ、芸術は不可能になってしまうんです。僕は…芸術がやりたいんです」
僕は彼の横顔を見た。彼は都市の中にぽつんとしている、修道士か何かに見えた。あるいはそれは僕が勝手に、自分の内面を投影していただけなのかもしれない。