06
「遊佐、起きてー、授業始まるよー」
「うわ!」
私が慌てて飛び起きると、智倖が驚きと困惑の表情を浮かべ、きょとんとしている。
「あれ?」
「ちょ・・・遊佐、どうしたの・・・?」
きょろきょろとあたりを見渡すと、そこは私がいたはずの倉庫ではなく、いつもの教室だった。
後頭部をさする。
・・・痛い。けど、ずいぶん楽だ。
「変なの・・・どっかで頭ぶつけた?」
「ははは、ちょっとね」
私は笑ってごまかす。
「おーい」
「痛!」
不意に、後頭部が鈍くいたんだ。
「遊佐?」
「おーい」
智倖の声に混じって、男子の声が頭に響く。
誰?
「こんなところで寝てんなよ」
寝てんな?
もうおきてるはずなんだけど・・・。
「起きろ!」
その叫び声と共に、視界が真っ暗になった。
「おい!」
「え・・・?」
目を開けると、目の前に誰かの顔あり、驚いて勢いづいて後ろに下がって、頭をまた戸棚でぶつけた。
「っ・・・!」
思わず涙ぐむ。
「大丈夫か?ってか、こんなところで何やってんの?」
「さ・・・哉都君・・・」
そこには、荷物を床に置いた哉都君がしゃがみこんでいた。
「何やってんの?さっき、伸びしたまま後ろにひっくり返ってた人でしょ?椎名さん」
「いや・・・頭くらくらしてしんどかったから、休憩・・・」
「こんな時間まで?」
「え?」
「もう、5時だよ」
「えぇ?!」
慌てて飛び上がるとまた頭が鈍くいたんで、うずくまる。
「頭、そんなに勢いよくうってたんだ・・・」
哉都君が私をまじまじと見ていた。
いつもならば、赤面するところなんだろうけれど、頭が痛すぎて、そんな気にもなれなかった。
「ちょっと待ってて」
そう言って、彼は一旦倉庫を出て行った。
そして、直に帰ってくると、私にハンカチを差し出す。
「はい」
「え?」
「頭にあてなよ」
「あ・・・ありがとう」
私がそう言ってハンカチを受け取ると、
「やっぱ、あんた相当な変わり者だ」
哉都君がそう言って、笑って見せた。
だけど、その笑顔は、今までみんなに振り撒いていた笑顔とは全く違う、どこか悲しそうな笑顔だった。