05
「え?」
「だから、面倒だから、真面目にやってんだよ」
彼はそう言うと、屋上を後にした。
私はしばらくの間その場に立ちすくしていた。
面倒だから・・・真面目にやってる?
意味がつながらない。
そこにきて、今度は頭の痛みがぶり返してきた。
ぐわんぐわんと音がしているような気がする。
思わずしゃがみこんだ。
次の授業は、休もうかな、と思ったけれど、ここにはサボりの3年生が来るため、場所を変えなければいけない。
階段を少し下りたところに、普段使われない倉庫があったはず。
ぐらぐらする頭を押さえながら、私は階段を下りた。
「ふぅ・・・」
と、息を吐き出す。
痛い。
だからといって、保健室にいけるはずもない。
保健室に行けば、どうしてこんなことになったのかを説明しなくちゃいけない。
廊下で転んだとか、階段から落ちたとか、立派な言い訳はいくらでも思いつくけれど、保健室のおばさんは勘が鋭い。その上、詮索が大好きだ。
誰かと一緒に来なかったことは、絶対妙だと思われる。
しかも、おばさんは話すのが大好きだ。
何の話だろうと、耳に入ったことはなんでもかんでもぺらぺらと喋る。
屋上にいたことなどを言えば、たちまち、私の平穏な時間は崩れてしまう。
こんな最悪な保健室の先生なんてあっていいものなのだろうか?
そんな疑問を抱きながらも、私は自分の屋上の10分間を守るため、保健室には行かなかった。
10分しか、って言っちゃえば終わりだけど、私にとっては、10分も、なんだ!
・・・痛い。
私はしゃがみこんだまま頭を垂れる。
「面倒だからだよ」
不意に、哉都君の言葉が耳に響いた。
「面倒だから・・・かぁ・・・」
どういう意味なのか、私にはよくわからないけれど、彼も、やっぱり人間だったんだ。
いや、人間なのはあたりまえなんだけど、どこか、彼の完璧ぶりに、あっけにとられていた。
「何言っているんだい?」なんて、持ち前の笑顔で返されたらどうしようかと思った。
だけど彼にも、人間らしい、暗い部分がちゃんと合ったんだなって思うと、安心する。
あのくらい瞳は・・・なんなのかわかんないけど。
「はぁ」
もう一度息を吐き出す。
溜息じゃない。
頭が痛い。
さっきよりも、痛い。
頭が回ってるみたいな感覚に陥った。
そして、気分悪なんて考えている間に、私は眠ってしまっていた。