03
翌朝。全校集会で、哉都君は表彰された。
後輩、同学年からはもちろん、先輩からの信頼も厚い彼は、大きな拍手とともに、降壇する。
もちろん、彼のことを好ましく思わない人だっているのだけれど、彼にかなわないことは目に見えているので、今まで手を出してきた人はいないらしい。
私は、彼がみんなに向ける笑顔に、違和感を感じていた。
どこか、嘘っぽい気がした。
・・・なんて、きっと私の思い込みだけどね。
私は、今日も昼休みの最後10分間だけ、屋上に向かった。
屋上に近づくにつれて、足取りはだんだん軽くなって、ついさっきまで舞架が話していた哉都君のことなんて、ひとつも頭にはない。
ただ、空と雲が見たい。それだけだった。
私は、小さく屋上のドアを開けた。
一応、先輩がおられると困るので(私の学校は、こういうことに無駄に厳しい)、毎回こうしている。
隙間からのぞく。誰も見えない。
よーし!
私は勢い込んで、ドアを盛大に開け放った。
「あ・・・」
「あ・・・」
ところが、人はいた。
それも、私でもよく知っている人物だった。
「南山・・・哉都君・・・?」
私のせりふは完全に疑問形になってしまっていて、哉都君は、硬直したままこちらを向いていた。
最強真面目君でも、こんな顔するんだなー、なんて、気楽なことを思ってしまう。
そして、私の目に、彼の手の中のものが映った。
「作文・・・」
それは、彼が賞を取り、今日表彰を受けたばかりの作文だった。
それが、彼の手の中で、びりびりに引き裂かれている。
私は、彼の目を見る。
いつもの笑顔とは違う、冷たい光を放っているように見えた。
さて、いくら有名人がいようとも、私が屋上にきた目的は、彼じゃない。
一人だけの時間だと思っていたけど、まぁ今日ぐらいいいか。
私は、いつもの定位置につくと、ゆっくりと空を眺めた。
今日は、雲が少なくて、青がいつもよりも深い。吸い込まれてしまいそうな、青空。
「君・・・僕がいるのに、動じないのか?」
不意に、後ろから尋ねられた。
私は、空を見上げたまま尋ね返す。
「どういう意味?」
「他の奴なら、大騒ぎするから。あぁだこうだ、勝手に言いふらされてさ」
「別に、何もしないけど」
「ふぅん」
会話はそこでとまる。
私は、もう一度空に眼をやった。
そして、そろそろ予鈴かな、なんて思って、時計に目をやったとき、もう、哉都君の姿はなかった。
「しんしゅつきぼつ・・・」
つぶやいては見たものの、漢字が頭に浮かんでくることはなかった。
勉強しなきゃなぁ、なんて、気楽に思いながら、私は屋上を後にする。
そこには、哉都君が原型がまったくわからないほど引き裂いて、すでに塵と化した作文が、取り残されていた。
彼は、なぜ、これをこんな風にしたんだろう?
考えたって、答えは浮かんでこない。
なぜなら、私は彼じゃないんだから。