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「ほんっとうに、ごめんなさい!」
「まぁ、前を見ていなかったこっちも悪いわけだし・・・」
「でも・・・大道具が・・・」
「・・・あぁ、これ」
なんだか、もう泣いてしまいそうだった。
何で走ったんだろう、私。小学校の時に先生が「廊下を走るな」と散々言っていたのは、こういうときのためだったんだろうか。
「修理・・・できる?」
「さぁ・・・わかんない」
「どうしよう・・・!本当にごめんなさい!」
必死で謝っている。謝っているだけでは何もできないことは知っていた。
でも、謝ること以外に今の私にできることはなかった。
「ちょ、大丈夫?!」
「あ・・・はい」
勢いよく大道具を運んでいた人たちにぶつかったとき、しばらくくらくらとしていたんだけど、そのまま保健室に連れて行かれて、しばらく休んでいたらすっかり楽になっていた。
「もう大丈夫」
「そっか・・・よかった」
私がぶつかった人たちは、隣のクラスの人たちで、先輩でなかったことにとりあえず一安心。
一安・・・し・・・ん?
「あ!」
とても重大なことを思い出した私は、叫んで隣のクラスの琴海を盛大に驚かせる。
でも、それどころじゃなかった。
「大道具!」
「・・・あー」
琴海の返事は曖昧だった。それが、とても不安を掻き立てられ、私はあわてて立ち上がる。
「あ、ちょ!遊佐!」
「大道具!」
そして、私が見つけたのは私がぶつかった衝撃で運んでいる人たちが転び、そして2メートルぐらいの高さから見事に落ち、盛大に破損している隣のクラスの一番大事な部分の大道具だった。
「本当にごめん・・・どうしよう」
完全に頭を垂れて、私は隣のクラスの大道具を準備する人たちに謝る。
頭が上がらなかった、といってもいいかもしれない。
自分のクラスの製作に貢献できないだけでなく、隣のクラスの人にまで迷惑をかけてしまうなんて。
琴海をはじめとする大道具の人たちは、自分たちにも非があったというが、さっきのは明らかに私が悪かった。
そういう大事なものとか、運んでいる人がいるのは分かっていたのに、どうして走ってしまったんだろう。
「ちょ、どうしたー・・・え?!」
「は?!大道具どうしたの?!」
「ちょっと・・・接触事故があって壊れちゃって・・・」
「はぁ?!」
いつまでも大道具の人たちが帰ってこないことに痺れをきらせたのか、隣のクラスの人たちが次々と廊下に集ってくる。
人が一人集ってくるたび、どんどん私は小さくなっていく。
そんな風に叫んじゃうほど、大事な部品だったのに・・・。私が壊してしまった・・・!
「本当にごめんなさい!」
「ちょ、遊佐がぶつかったの?!」
「マジかよー、椎名ぼやっとしてんなよな」
「うわー、最悪」
返す言葉もなかった。琴海が必死で「うちらも前見てなかったから」と叫んでいたけど、どちらが悪いかなんて一目瞭然だった。
「ごめんなさい・・・!」
「謝られたって・・・どうしようもないよな」
「どうしてくれんのー?」
言葉が突き刺さって、本当に泣いてしまいそうだった。
もはや、大道具の人たちのフォローなんて耳に届いてすらない。
「遊佐?何やってんの?」
「舞架・・・」
そこに通りかかったのは、舞架で、眉間にしわを寄せながらこっちに近づいてくる。
「うわ!何これ!・・・遊佐が壊したの?」
めちゃくちゃになった大道具を見て、舞架がまさかというような顔をしてたずねてきた。
私が小さくうなずくと、舞架の顔はさらにゆがみ、泣き笑いのような表情で私を見る。
「ばっか!」
「はい・・・」
「どうするの?!人様のクラスのもの壊して!」
「・・・」
舞架の言っていることも尤もだし、隣のクラスの人たちの白い目も尤もだったけど、こらえていた涙はとうとう流れてしまった。
「何やってんの?」
その時、そうやって人ごみに混じってきたのは、
「さ・・・いとくん」
「あれ、大道具?何、壊れたの?」
形のいい眉をゆがませながらこっちに近づいてくる。
同じクラスの女子たちは、さすがに彼の存在に慣れたのかうちのクラスの女子ほど色めきたってはいなかったが、何も言われなくても彼のために通る道を作った。
「椎名さん・・・もしかして壊した?」
おっしゃるとおりです、と私はうなずいて、哉都君が珍しく硬直しているのが余計に目に痛かった。