22
夏休みは、あっという間だった。
本当に、「あ」って言っている間に終わってしまったんじゃないかと思えるぐらい、あっけなかった。
「早いなぁ・・・」
「ホント、宿題に追われちゃって、遊ぶ時間無かったよー」
舞架がため息をついて、わざとらしく肩をすくめる。
「今日は、天気悪いなぁ・・・」
「また、空見てんの?」
「うん」
私がつぶやいた言葉に、また舞架はため息をついた。
今日は曇天で、でも、その雲の陰陽の差が、とてもきれいだった。
「遊佐、結局宿題終わったの?」
「一応は」
智倖が近寄ってきて、舞架に「おはよう」と手を振る。
そういえば、夏休み中に智倖に思わず電話をかけてしまったんだっけ、と、今更ながら、赤面した。
だって、電話の内容があまりにもどうでもいいことだったから。
「それにしても、祭りでは遊佐いい仕事してくれたよー」
「何で?」
「だって、あんなに近くで哉都君見れたんだよー!」
二人が、興奮したように叫ぶ。
私の中では、あぁ、そんなこともあったっけ、というような、軽い気持ちでしかなかったけれど、私が屋上でいつも見かける彼のあの「真顔」は、とても貴重なんだということを知れて、嬉しかった。
「偶然だよ、偶然」
「偶然でも、嬉しいものは嬉しいの!」
智倖が嬉しそうににっこりと笑う。
どうやら、彼女の役には立てたようで、私もさらに嬉しくなった。
でも、やっぱり、哉都君のこんな顔も見てみたいな、何て、望みすぎかな?
あの「真顔」が見られただけでも、貴重なのに。
「あ、噂をすれば!」
舞架が叫んで、ドアのほうを指差す。
そこには、いつもの笑顔で坂口君と何かを会話している哉都君の姿があった。
「目立つよね、やっぱり」
しみじみそうつぶやくと、「当たり前!」「哉都君誰だと思ってるの!」という、恋愛のような、尊敬のような、とにかく、憧れのこもった声が返ってきた。
だけど、誰も彼の「真顔」を見たことが無いんだ。
そう思うと、一種の優越感が心のそこから小さく湧き上がってくる。
自惚れでしかないんだけれど、私だけがあの顔を知っているんだって思えて、なんだか一人で舞い上がってしまった。