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「遊佐、どしたの?」
「別に、用事は無いんだけどさ・・・」
気付けば、私は智倖に電話をかけていた。
自宅の電話の子機が、手に握り締められている。
「宿題終わんなくて・・・智倖はどうしてるかなって。宿題終わった?」
本当は、そんな風に思ったんじゃないけれど、このよく分からない感情が何なのかなんて、たずねられるはずも無い。
「遊佐は、私が終わったと思ってんの?」
智倖は、苦笑いを含んだ声で、返答してきた。
「いや、可能性としては、決して無いわけじゃないかな、と・・・」
「なんだそりゃ。遊佐、大丈夫?返答がおかしくなってるよ?」
「そう?」
さすが、というべきか。智倖は、すぐに私の心情の変化に気付いてしまう。
「なぁに?もしかして、恋?」
「違うよ。そんなんじゃ・・・」
そんなんじゃ・・・無いよね?
「最近、疲れちゃって。智倖に励ましてもらおうと思っただけ」
「はは、お疲れだねぇ」
智倖のお気楽な声は、私の心にあったかい何かを残してくれた。
「うん、何か、智倖の声聞いたら、頑張れそうな気がしてきた」
「おう!これからも、困ったら電話しておいで!」
「ありがと」
そういって、電話を切る。
この気持ちが何か、っていう、答えは、全然わかんない。
でも、自分がどうしたいのか、ちょっとだけ分かった気がした。
私は、哉都君に笑ってほしいんだ。
あの、偽物の笑顔じゃない、「真顔」の笑顔を、見てみたいんだ。
気付いたら、少しだけ、もやもやが晴れた気がして、私は、作文に取り掛かった。