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あの夏祭りから少したち、夏休みの前半が終わった。もうすぐお盆だ。
とはいっても、部活に入っていない私にとっては全く関係ないんだけどね。
「お盆中、出かけようよー」
叫んでいるのは蓮斗だった。
バスケ部所属の我弟は、暇をもてあましているようにソファの上でごろごろと転がっている。
今年は、県大会止まりだったらしく、部活が少ないんだと言っていたことを思い出した。
「ねぇ、母さん」
蓮斗が再び繰り返す。
我が家でどこかに出かけようなんて、無謀にもほどがあるのに。
「無理無理。子供は黙って外で遊んでなさい」
掃除機を抱えてその場を通り過ぎた母さんが、あしらうように言う。
外で遊べる場所なんて、うちの近所じゃ、あの小さな公園しかないのに。
「分かったよ。じゃ、俺は盆中も平和にテレビゲームをしましょ」
蓮斗は、いつもと変わらないぐうたら生活を送ることを宣言した。
「蓮斗、宿題は?」
「そんなもん、終わりの週にちゃちゃっとやれば、完璧だよ」
母の問いに、ひらひらと手を振って蓮斗が答える。
これは、完璧に宿題が終わらなくて、2学期に居残りを食らうタイプだな。
何だかんだ言う私も、まだ終わっていない口だけど。
「後悔するのは自分よ」
母さんの決め台詞が炸裂した。
蓮斗は、ソファに寝転がったまままだ手をひらひらと振っている。
心配になった私は、とりあえず自分の部屋へと帰っていった。
「宿題・・・終わんないよう!」
叫んでみても、部屋の中で声が木霊するだけ。
特に、国語の宿題は天敵だった。
「作文なんて、書くこと無いし・・・」
もともと文章力のない私は、原稿用紙に書いては消し、書いては消しを繰り返している。
哉都君は、どんなことを書いているのかな・・・?
不意に思い出された情景は、原稿用紙を千切り捨てる哉都君で、私は思いにふけってしまった。
屋上での風景。私の中で、哉都君は屋上の風景の中に完全に入っていて、むしろ、彼の居ない屋上のほうがイメージできなくなっている。
何でだろう?
今まで、ずっと一人であの場で空を見つめていたのに。
そんな時、ぱっと頭に浮かんだのは、あの夏祭りで、私の横に座ってくれた、あの哉都君の「真顔」だった。
我に返って、頭を振る。
何で、彼の顔が頭に現れるんだろう?
考えてみても、答えは浮かんでこなかった。
「はぁ・・・」
ため息じゃないよ。息をちょっと多めに吐き出しただけ。
最近、自分が自分じゃないみたいで、なんだか疲れる。
自分でもよく分からない感情にとらわれてしまうことがあるんだ。
・・・哉都君と居ると。