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「慶一、絆創膏持ってるか?」
「いや、持ってない」
哉都君は、驚いた顔をしている坂口君の答えを聞き、あたりをぐるりと見渡した。
「コンビニ行って来る。ついでに、君の求め人も探してくるから」
そして、私たちの返答も聞かずにすたすたと歩き出してしまった。
「お前さ、哉都と付き合ってんの?」
「め、滅相も無い!」
哉都君の姿が遠ざかっていく中、坂口君に尋ねられ、私は反射的に叫ぶ。声が裏返っているのが、自分でもわかった。
ありえない。だって、哉都君はあんな人気者だし、それに引き換え私は・・・。
「いや、だって、あんな顔してる哉都、初めて見たからさ。
あいつとは、小学校からの中なのに、なんて言うの?笑顔じゃない顔、見たことなかったし」
「そうなんだ」
「しかも、その、いい意味の真顔で、人に謝るなんて・・・」
「私も、何でなのかわかんない」
「ふぅん」
坂口君は、そういって少し考えた後、またたずねてきた。
「転ぶの好きだなってことはさ、前にも椎名が転んだところに哉都が遭遇してんの?」
「あぁ、うん。前に廊下で滑って転んじゃって・・・」
屋上で転んだということは、伏せておいた。
いくら学級委員で信頼の置ける坂口君でも、そんなことを口走るわけには行かない。
だって、屋上にいけるのは、あの時間帯だけだもん。先輩に知れ渡ると面倒だし、邪魔されたくない。
「へぇ、廊下で・・・」
「私、よく転ぶから」
「あ、遊佐いたー!」
私の言葉に、坂口君が苦笑いを浮かべたのと同時に、私の探し求めていた声がした。
「智倖!舞架!」
「どこ行ってたのよー!」
「探したんだよ!」
「ご・・・ごめん」
二人に方を揺さぶられ、申し訳なく頭を垂れた私に、絆創膏が一枚差し出される。
「これ」
「ごめん、お金はちゃんと返すから・・・」
「いいよ、別に」
哉都君は、例の「笑顔」に戻っていた。智倖と舞架が息をのむのがわかる。
「じゃ、俺らは行くわ」
坂口君が立ち上がって、哉都君とともに祭りの出店に紛れていった。
「遊佐、あんた、いい経験したねー!」
「え?そ、そう?」
「私も転べばよかった!」
「そういう問題じゃ・・・あ、浴衣、汚れてはないから!ごめんね」
「いいよ、別に」
二人は、私に笑顔を向けてくれる。その笑顔と、哉都君の「真顔」が重なって、私はちょっとうれしかった。