01
その日も、連日に続き晴天で、真っ白い雲が映えて見えた。
私は日当たりのいい窓際の席で、例の如くボーっと空をながめている。
別に、授業が面倒とか、そんなわけじゃない。
ただ、空を見ているのが好きだった。
授業中になると、眠たくなるときとか、あるじゃない?あれと同じ感覚だと思う。
なぜだか、授業中になると、空を見ていたくなる。
ぽっかりと穴が開いたような心を、埋め合わせてくれるような気がする。
そんな感覚が、好きだった。
「遊佐、さっき、また外見てたでしょう?」
「あれ?わかった?」
「ばればれ」
智倖がそう言って、にっこり笑ってみせる。
「外なんて見て、何が面白いのよ。どっかのクラスが体育とかしてるわけでもないのに」
「空を見るのが楽しいの」
「意味わかんないー!」
そう言って笑いあうのが、すごく楽しい。
平穏であることが、一番すき。
私は、特別目立つ生徒じゃないし、何か特技があるわけでも、成績に影響するほどの欠点があるわけじゃない。
こんな風に、平穏であることが、一番だ。いつも、いつでも、そう思う。
その時、智倖が小さく黄色い悲鳴をあげた。
「哉都君だよ!」
声を小さくそういう智倖を、私は複雑な思いで見つめる。
それに気付かない様子の彼女は、はぁ、と溜息をついた。
「彼、本当にかっこいいよね。成績もいいし、信頼あるし、ほんっと、憧れるー!」
おそらく、大半の女子が共感している台詞を、智倖は意味深につぶやく。
“大半の女子”からぶれてしまった私は、曖昧な笑みで返した。
南山哉都君は、全学年の女子からも、男子からも、先生からも、信頼を得ている、まさに、最強真面目君とうたわれている隣のクラスの少年だ。
真面目で優秀、任された仕事はきっちりこなし、責任感も強い。
それが、彼に張られたレッテルだ。
実際、そうなのか、それとも、本当はストレスに感じているのか、そんなことは私にわかるはずもない。
だけど、彼のカリスマ性は、本当にすごいと思う。
彼の一声で、全てが上手くいってしまう。
でも、私は彼に憧れたことはない。何もしないし、彼を見ても、何の感情も浮かばない。
そんな、騒がれるような人になることを目指しているわけじゃないし、信頼にこたえるのって、案外ストレスだ。私には、重荷過ぎる。
かといって、哉都君に同情する気もないし、私のようなやつに同情されても嬉しくはないだろうから、私は何もしない。何をされたって、おそらく迷惑なだけだろう。
だけど、いくらそう思っても、どう頑張っても、「彼は、自分とは違う格の人間だ」って、そう思ってしまうのは、仕方のないことなのだろうか?