18
「智倖、舞架・・・?」
呼びかけても、それらしい人を見つけられない。
私は、幼子のようにパニックに陥っていた。
「智倖!舞架!」
なれない下駄を履いて、人ごみを走る。・・・と、案の定転んだ。
「痛い・・・」
ひざとおでこを盛大にコンクリにぶつけてしまった。
幸い、浴衣は汚れていない。
智倖からの借り物。絶対汚すわけには行かなかった私は、ちょっと安心して一息ついた。
二人とも、見つかんないし。かなりきつくぶつけたみたいで、おでこ痛いし。
散々だな・・・もう。
「ちょ、大丈夫?」
「へ?」
突然後ろから声をかけられ、振り返ると、坂口君と哉都君が立っていた。
「・・・見てた?」
「ばっちり」
坂口君が答え、肩をすくめる。
私は苦笑いを返し、ちらっと哉都君を見ると、何か真剣な眼差しでこっちを見つめていた。
こんな風になったら、たとえファンじゃなくたって、思わず、ドキっとしてしまう。
私は動揺を隠すように、たずねた。
「どうか、した?」
「血」
「え?」
「おでこから、血、出てる」
その声が合図だったかのように、おでこから生暖かい液体が、顔を伝ってきた。
「あ・・・」
ちょっと赤みがかっていた顔が、一気に青ざめた。
坂口君があわてたようにティッシュペーパーを取り出す。それを受け取った哉都君が、手馴れた手つきでティッシュを私のおでこにあて、私の肩を抱いて近くのベンチに座らせる。
「君は転ぶのが好きなんだな」
「・・・」
別に好きではなかったけれど、何も言い返せなかった。
「ちょっとすりむいただけみたいだね」
「あぁ」
坂口君が私の正面に片ひざをついて、傷を調べる。
哉都君は、私の隣に座って自販機で買ったミネラルウォーターをティッシュにしみこませていた。
そのぬれティッシュをおでこに当てると、小さく痛んで、思わず体をこわばらせる。
「痛いか?」
「う・・・うん、まぁ・・・」
私は痛みに顔をこわばらせたまま、答えた。
「ゴメン」
「へ?」
まさかここで、謝罪の言葉が出てくるとは思っていなかったので、私はドギマギする。
「でも、我慢してくれよな」
「う・・・うん」
顔を上げると、坂口君もびっくりした顔でこちらを見ていた。
・・・どうしたんだろう?哉都君。