13
昨日はいけなかった屋上に、一人、空を見上げる。
私は空を見るために、屋上に上がるんだ。哉都君に会うためじゃないって、自分自身に言い聞かせて。そうしないと、ここで哉都君とあってるって、彼女たちが知ったら、絶対私は彼女たちににらまれる。
気が弱い私が、そんなことに耐えられるはずもなかったから。
曇りがちで、さっきまで雨が降っていたから、シューズがべちゃべちゃと音を立てる。
こんな日は、先輩は絶対に屋上に来ないから、今日はいつもよりも少し長くここに居れるんだ。
雲が進むスピードは、いつもの倍くらいあって、今日は風も強い。
真っ黒い髪が、横に流れた。
心にしみこむ満足感。なのに、どうしてか、物足りない。
―――――哉都君が、今日はいない。
ぽっかりと、心の隙間を埋めてくれるものがない。
そんなことを考えていると、なんだか
私は、どうしてしまったんだろう?
覚えのない感情に駆られ、空を見上げたまま顔をしかめた。
「あーあ」
今日のは、本当にため息だった。
口から幸せが零れ落ちていくような気がしたけれど、どうだか、とめられなかった。
私なんて、部外者なんだから―――――哉都君のファンでも、佐和子ちゃんとになちゃんみたいに、いやみ嫌ってるわけでもない部外者なんだから、彼女たちのことなんて、放っておけばいいのに、どうしてだか、恐怖を感じたんだ。
私は、どうやら、自分も知らぬ間に、部外者ではなくなっていたようで・・・いや、部外者でいたくないって、思ってしまっていたようで、だんだん自分の気持ちが分からなくなっていた。
「姉ちゃん、俺のアイス食った?!」
「しらない」
「母さんか・・・母さんなのか?!」
家に帰ると、弟が家中をアイスだなんだと叫びながら走り回ってる。
全く、幼稚なものだ。たった一歳しか違わないのに。
なんて、蓮斗に言ったら、殴られるんだろうな。一端にも、男だもん。力は強い。
「あぁー!やっぱ母さんだー!」
という、彼の悲鳴にも似た声が家中に響いた。
私の元に、アイスのからを持って走ってくる。ゴミ箱をあさったのだろうか、少し生臭い。
・・・全く、迷惑なことをしてくれる。
「俺のアイスが・・・!」
しょげたような、しかし、大声で、蓮斗が叫んだ。
声変わりしたばかりで、まだ声がある程度高く、耳につく。
「うるさいな・・・」
私が小さくつぶやくと、「姉ちゃんにこの苦しみが分かるか!」と、また甲高く叫び返された。
あんまりうるさかったので、私はとうとう観念し、
「分かった、私が買ってきてあげるから、黙れ!」
と怒鳴る。
ところが、蓮斗は、「やったー!」と途端ににっこりと笑い出し、私はしてやられた、と頭を抱えた。