12
「・・・」
今日は晴天だったのに、私は屋上にいかなかった。
次の授業を、ぼんやりと空を見上げたままで潰す。
そんなことをするぐらいだったら、屋上に行っておけばよかったのに、私は行かなかった。
―――――――行けなかった。
怖かった。よく分からないけれど、得体の知れない恐怖を感じた。
恐怖、というより、不安。
あの、佐和子ちゃんとになちゃんをみていたら、とてもじゃないけれど、私の足は動かなかった。
あんな小さなことに左右されるなんて、ばかげている。
だけど、それほど、彼女たちの視線は、冷たかった。
ぼんやりしていると、チャイムが鳴った。
外では、チャイムと同時に古い時計塔の鐘が、さびた音を鳴らしている。
そうか、この時間帯は、かぶるんだなー、なんて、現実逃避とも取れる思い入れに浸った。
「遊佐ぁ、今日放課後買い物行こうよぅ」
「OK」
智倖の誘いに、手を挙げて答えると、また空の観察に戻る。
さっきまで、雲ひとつないいい天気だったはずの大空に、小さな、シュークリームみたいな形の真っ白い雲が浮かんでいた。
「ねぇ、この服とこの服、どっちがいいと思う?」
智倖が可愛い洋服を2着差し出して、たずねてきた。
「こっち」
と、迷いなく答えてから、「どこにきて行くの?」とたずねる。
「決まってるでしょう?夏祭りだよ」
胸を張って、智倖は答えた。
そうか、もうそんな季節か、なんて、馬鹿みたいに思いながら、「今年も女3人かぁ、むなしいね」という智倖の台詞に笑って相槌を打つ。
「しょうがないんじゃない?」
「ほらぁ、遊佐がまたそんなこと言う!そんなことじゃ、一生男無用になっちゃうよ!」
「男無用?」
「彼氏居ないってこと!」
首を傾げる私に、智倖は不満げに言って、急ににやりと笑った。
「な、何?」
「遊佐、髪伸びたね」
そういわれて、ちらりと横髪に目を向ける。
確かに、去年はある程度短かったから、それを思えばかなり伸びただろう。
「じゃ、浴衣決定だ」
「は?」
「私の浴衣貸してあげるから、遊佐は浴衣ねぇ」
楽しそうに、智倖が断言した。
「何で?!智倖がきれば良いじゃん!」
「私には、もう小さいんだって。だから、リトルサイズの遊佐が着なきゃ」
確かに、私は身長が低い。だけど、それとこれとは話が別だ。
「いやだ!」
「そうだなぁ・・・髪の毛は、いっそアップにしよっか!私と舞架でやってあげるから!」
私の拒否を、智倖は全く聞いていない。
・・・まぁいっか。どうせ、当日前になったら、忘れちゃうし。
「いやぁ、後2週間か・・・楽しみだねぇ」
そういう智倖が、一番楽しそうだった。