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「遊佐さ、ほんとに恋とかしてないの?」
「は?」
鞄の中身をあさっていると、急に舞架が訪ねてきた。
「哉都君に憧れない女子は、女子じゃない!」
智倖が横に来て、断言する。
「だよねー!」
「やっぱ、舞架は分かってる!」
「哉都君みたいな人気者じゃ、相手にされないのは分かってるけど・・・」
「これは恋じゃないのよねぇ、憧れよ!」
「そう、憧れて、そこから恋に発展するのよねー」
「大事なのは、そういう憧れ心よ!」
「やっぱ、智倖は分かってる!」
何も答えられない私をよそに、二人で手を取り合って盛り上がっていた。
「そんなこと言っても・・・だってさぁ・・・」
私は困惑した表情で、視線をそらす。調度そこに、ドアの隙間から哉都君が顔を出した。
パッチリと、目が合う。
「哉都君だ!」
すぐさま反応し、黄色い悲鳴を上げる舞架と智倖。
私は視線をそらせずに、彼の瞳を見つめていた。
昨日の、無表情な、暗い瞳から、もう元の、なんだか親しめない感じの笑顔に戻っている。
哉都君はこちらに向かってにこりと偽の笑顔で微笑みかけ、学級委員長を呼び止めた。
私の周囲の女子から歓声が上がる。
「こっち見た!こっちに笑った!」
「ねぇねぇ、今の私のほう見てた?!」
「こんなことなら、もっと髪の毛セットしてくればよかったー!」
まるで、テレビのアイドルが来たかのような騒ぎっぷりだ。
まぁ、ジャニーズ顔負けの美男子が微笑みかけてくれば、それは興奮するだろう。
他の女子と混ざってキャーキャー言っている二人から視線をはずし、私はなぜか、ちらりと佐和子ちゃんとになちゃんを見てしまった。
「・・・ホント、いけ好かない」
声は聞こえなかったけれど、確実に、口はそうやって動いていた。
今日の天気は晴れ。
雲ひとつないいい天気が、なぜか私を余計不安にさせた。