10
「・・・」
「どうしたの、姉ちゃん」
「・・・別に」
「もしかして、恋の悩み?」
「違う。ってか、万が一そうであっても、蓮斗に相談するわけないでしょう?」
姉弟で馬鹿みたいな会話を続けて早10分。
私はほとんど黙っているから、大体蓮斗がしゃべってるだけだけど。
「姉ちゃんが黙ってるなんて、珍しいな」
ポツリと蓮斗がつぶやいた。
・・・私は弟に、おしゃべりな奴だと思われていたのだろうか。
「別に珍しくないじゃん」
「そうかな。姉ちゃん、結構よくしゃべるよ。変なことをぽつっと」
「どういう意味?」
「言葉のまんま」
そうか、私は変なことをよくポツリとしゃべってしまうのか。
真剣に思い悩みかけたとき、Tシャツをしまいにリビングに現れた母が、苦笑いをして言った。
「遊佐、ついに弟に馬鹿にされるようになったの?」
「え・・・」
そうか、今のはからかっているだけだったのか。
そう思うのと同時に蓮斗を睨む。
「姉を馬鹿にするもんじゃないでしょう」
「いや、だってマジじゃん。姉ちゃん、急に変なこと言い出すしさ。
・・・悪いけど、睨んでも怖くねぇし」
蓮斗はソファにもたれかかって、余裕そうにけたけたと笑った。
「この間だって、自分は変か、なんて聞いてきてさ、本当に何かと思ったよ」
「どうしたの、遊佐。恋の悩み?」
余計なことを言う蓮斗にパンチをお見舞いしてやろうと思ったのだが、その前に母が尋ねてきた。
・・・この親子は・・・考えることが同じのようだ。
確かに母と蓮斗はよく似ている。
顔つきも、恐らく性格も。一卵性親子というべきか、蓮斗は父と似ている要素をほとんど持たない。
余談ではあるが、私は父にも母にも似ていないらしい。
しいて言うなら、父方の曾祖母ちゃんの若い頃の写真と私の顔を見比べると、よく似ているらしい。
「え?本当に恋の悩みなの?」
私が返答しなかった為、肯定だと思い込んだ母が目を輝かせて尋ねてくる。
「違う」
と即座に否定すると、「即答なのが怪しいー」と、一卵性親子が同時に言った。
「本当に、そんなんじゃないって」
「じゃあ、何?」
「ちょっと、哲学について考えてただけ」
実際、哲学というものが何なのかよく分からないけれど、思いついた言葉を口に出してみた。
冗談だと見取った二人は、個々の行動を再開する。
母は今度はポロシャツを持ってうろうろしているし、蓮斗は学校の出来事を事細かく話し始めた(実際私よりも蓮斗のほうがよくしゃべる。そして、それ以上に母がしゃべる。父はどちらかといえば無口なほうだ)。
結局、この一卵性親子に与えた誤解は解くことが出来なかった。