09
昨日の哉都君――――――。
あんな不気味な目、始めてみた。
背筋がぞっとするような、何も考えていない無心の目。
あそこまで心が感じられない瞳は、始めてみた。
いつも、自分の感情を押し殺しているようにしか見えない彼が、あんな目をしている。
逆にいえば、それが彼の本当の姿なのかなー、とか、思ってみたり・・・。
「何ぼーっとしてんの?」
「へ?何が?」
「遊佐、さっきから空見てぼーっとしてんの?」
舞架がわたしの顔を覗き込んでいた。
それを智倖が顔の前に人差し指をだし、左右に振って言う。
「舞架、それがいつもどおりの遊佐だよ」
「あー、言われてみれば・・・いっつも空見てるよね」
「でしょう?!」
・・・本人の目の前で、一体どんな会話してるんだ。
そう思ったけど、本当に空ばっかり見ているので何も言い返せなかった。
そんな私をよそに、舞架が納得したように、しきりにうなずいている。
その様子を見て、智倖が得意げにふふんと鼻を鳴らしていた。
・・・本人の目の前で、一体何をしているんだ。
「きゃー!哉都君よ!」
そのとき、少し離れたドアの近くの席からそんな女子の悲鳴が上がった。
「え?どこどこ!」
智倖と舞架が黄色い悲鳴をあげながら、その女子たちにまじりにいく。
あっという間に、ドアの前に人だかりができ、おいていかれた私はとりあえず読書をしようと本を取り出した。
それなのに、チラッと時計をみて、読書をしようとしていたことなどすっかり忘れてしまう。
早速カウントを始めてしまった。
朝のホームルーム開始まで、あと7分45秒・・・40秒・・・35秒・・・。
その間にも、黄色い悲鳴がきゃーきゃーと耳に響く。
そんな中で、私の耳に「あいつ、調子乗ってるよね」という、紛れもない女子の声が聞こえてきた。
驚いて、振り返ると、私と同じで殆どの女子から炙れてしまった一部の女子が黄色い悲鳴をあげる女子たちを見ていた。
いや・・・女子たちを見ていたのではない。
女子たちに輝かしい“偽の”笑顔を振り撒く哉都君に向けられていた。
柚木佐和子ちゃんと、夏部になちゃんだった。
そうか、彼女たちは私と違って、自ら炙れているんだ。
私は複雑な思いで、黄色い悲鳴をあげる女子の群れと、佐和子ちゃんとになちゃんを見る。
そして、自分が時計を見ていたことを思い出す。
おっと、あと10秒・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・。
キーンコーンカーンコーン
・・・畜生、ちょっとずれたな。
私はそう思いながら、わしゃわしゃと席につく女子たちを見る。
佐和子ちゃんはになちゃんの席から離れ、自分の席についていた。
「あいつ、調子乗ってるよね」という、彼女たちの声が耳に響いている。
何でそんなに彼が嫌なんだろう、と疑問に思った。
そして、それと同時に、あの屋上にいる彼の姿を思い出した。
「面倒だからだよ」という、彼の声とともに。