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積雪

作者: りょう。

あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願い致します。

雪が柔らかにその個体を重ねる。

今年、寒い季節になって初めてのこの雪は、この世界に冬が来た事を明確に示していた。

窓の外から見える景色が段々と白く色づいていく景色は何年経ってもあまり好きになれない。病弱な私には、この冬という季節は外にすらなかなか出る事ができない憂鬱な季節だ。あの雪に触れる事が許されたことは今までに一度もなかった。

同い年の女の子たちは皆、既に社交デビューが終わり婚約者や良い感じの男性を見つけて楽しくしていると聞いている。

それは手紙の報告ですら嬉しさや心の震えが伝わってくるほど、流れる文章は紙の上を踊っていた。


窓の外を眺めていた視線を手元へ戻すと、そこにはお店で販売しても問題がない程の刺繍が出来上がっていた。

上手ですねと言われる褒め言葉も、自分の引篭に対しての年数が表されているような気がして、なかなか喜ぶことが出来ないでいる。


一息つこうと伸ばした指先には湯気の立っていない紅茶が居座っていた。どうやら私は長らく窓の外を眺めていたらしい。

どれだけ暇なのかと問いかけて身体のせいですと応える遊びは何回やった事か。こうして1つのことでぐるぐると考えてしまう癖は随分と昔から染み付いているようで頭を一度洗い流したいほどである。

ついでにこの病弱な身体ごと取り替えて元気な自分になりはしないか。



なんて。


どこまで愚かな考えだろう。

それはここまで大切に育ててくれた家族の努力ごと全て無くなってしまうという事であるのに。


ああ、ほら、また。

カップを握ろうとした指が宙に浮いている。

今度はしっかりとそのカップを握りしめて口に持っていけば、少しだけ温かな紅茶が口の中に入ってきた。



「はぁ……」



まるで積雪のようである。

悲しい気持ちを積み重ねて積み重ねて、いつしか埋まってしまうような気がする。

すっぽりとこの身を埋めてしまった時、一体私は何になってしまうのだろう。そんな、どうでも良いようなくだらない考えがまた、しんしんと降り積もっていく。






___コンコン



「はい?」


温かな春は雪を溶かし、その水は大地の栄養となると言われている。

大地は人を育て、出会いが縁を生み、そして、明るい未来へと繋がるのであれば。

冬もまた、必要不可欠であるという事。


そう、考える事が出来るのは、いくつか季節を巡り、本当の冬を越えた先に。

お読みいただきありがとうございます!!

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