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手下たちの惨憺たる有り様を見たウロコ衆の頭領、屋守翁が追い詰められ、とった行動。
それは。
恥も外聞もない、この場からの逃走であった。
他の何よりも己の身が大事だ。
傷ついた手下を置き去りに、屋守翁は優に背中を向けた。
優が屋守翁へと走る。
逃がせばまた、トワを狙ってくるかもしれない。
弾丸の如き速さで屋守翁に追いついた。
優の両手が老忍者の尾を掴む。
「ひぃ!!」
叫びつつ背後を一瞥した屋守翁が、何かを地面に投げつけた。
辺りに突然、もうもうと白い煙が立ち込める。
煙玉であった。
優は慌てなかった。
すでに掴んでいる屋守翁の尻尾を引き寄せる。
「?」
先ほどまでと違って、いやに手応えが無かった。
煙が晴れ始める。
「え!?」
優が驚いた。
優が握っていた老忍者の尾の元、すなわち屋守翁が居なかったのだ。
尻についていた辺りから尾が切り離されている。
尾だけを残し、煙の中をいずこかへ姿を消したのだ。