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常人であれば数秒で死に至る毒も、今の龍虎には通じない。
龍虎は蛇姫の頭を左右から両手で挟み、力任せに引き剥がした。
首から血を流しながらも委細かまわず龍虎は動き、蛇姫の頭を地面へと押す。
同時に右ひざを蛇姫の顔面に叩き込んだ。
頭を完全に粉砕され、蛇姫の身体が宙を舞った。
地面へと激突し、ぴくりとも動かなくなる。
蛇姫は二度目の死を迎えた。
邪魔者を倒し、仇敵との戦いに戻ろうとした龍虎は、カーミラの姿が消えていると気づいた。
「逃げられたか」
虎造の声が言った。
龍虎の全身をトワの瞳から発した優しい光が再び包んだ。
次第に光が収まる。
そこに立っているのは虎造とお龍の姿だった。
「カーミラを捜さねえとな」と虎造。
「ああ」
お龍が頷く。
そこで、はっとなった。
「虎! もうすぐ朝になるよ!」
「いけねえ! ついつい、人だったときのくせが抜けねえな」
虎造が苦笑する。
二人は、もうじき夜も明けようかという薄闇の中をいずこかへと姿を消した。
ターシャは左手首の帯を操作し、再び透明に姿を変えた。
辺りに接近してくる集団の気配を察知したからだ。
朝日が差す林の木々の中を一人の老人を先頭に、大勢の忍びたちがやって来た。
屋守翁と二十人のウロコ衆である。
彼らは洞窟の近くに立つ、優とトワを見つけた。




