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「絞め殺してくれる!!」
カーミラが言った。
が、言葉とは裏腹にカーミラの触手は絞まらない。
龍虎の強靭な肉体が、それを許さないのだ。
触手の中の龍虎の両腕の筋肉が盛り上がり、触手を押し返し始めた。
「おおおおおっ!!」
龍虎が吼えた。
龍虎を捕らえている触手が、全てちぎれ飛んだ。
「おのれーっ!!」
カーミラが叫ぶ。
龍虎が、カーミラへと跳んだ。
右の拳を空中で引き絞る。
カーミラは直感した。
このままでは、おそらく龍虎の拳は触手による防御を突き破り、カーミラの顔面に到達するだろう。
それは屈辱であった。
かつて祖国を追われ、この日の本へとやって来た者たちの一人、すなわち上位眷族である自分が下僕である存在に直接、顔を殴られるなど、あってはならない。
想像しただけで背筋が凍った。
龍虎の右拳が、カーミラの顔をめがけて放たれるかと思われた瞬間。
横合いより突如、現れた影が龍虎へと飛びかかり、首筋に噛みついた。
龍虎が押され、地に転がる。
龍虎は噛みついてきた者を見た。
蛇姫であった。
ぼろぼろの身体を何とか立ち上がらせ、カーミラと龍虎を追ってきたのだ。
カーミラに支配され、ほとんど自分の意思の無くなった操り人形としての行動であった。
蛇姫の牙の猛毒が龍虎に注入される。