74
「そこから先は無法丸が、あんたの口の動きとあたしの気配を合図に動けなくなったふりをしたって寸法さ」
縫が得意げに言った。
楽法の顔が屈辱に歪む。
「あれ?」
縫が突然、首を傾げた。
「そういえば何で、あの女の頭をかち割らなかったのさ、無法丸?」
縫の問いに無法丸は片眼をつぶり、ばつが悪そうな顔をした。
「どうも女は殺しにくい」
無法丸が言った。
「はいはい」
縫が呆れる。
「あたし以外の女には、お優しいことで」
縫が拗ねた。
「おい、いいかげんに降りろ!」と無法丸。
「へーい」
縫が無法丸の背中から降りる。
「さあ」
無法丸が楽法に言った。
「もう戦えないだろう? おとなしく引き退がれば、俺たちは追わない」
無法丸をにらみ、楽法はじりじりと退がり始める。
そして、さっと身を翻すと林の中へと姿を消した。
「優とトワを捜すぞ!」
無法丸が楽法が消えた側の反対へと走りだす。
「やれやれ」
縫が肩をすくめる。
「まったく…せわしないね」
虎造とお龍は血まみれで地に伏していた。
二人の前にはケルベロスとカーミラ、そしてカーミラに血を吸われ下僕となった蛇姫の姿があった。
ケルベロスの左の頭は首の骨を折られ、死んでいた。
蛇姫の左腕は肘から先を失っている。