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楽法の顔には脂汗が浮かび、唇を噛みしめている。
右腕はだらりと下がり、動かない。
「お」
縫が喋った。
指一本、動かせなかった身体が元通りになっている。
「この術、そんなに長くはもたないようだね」
真横の無法丸の顔を見る。
「ねぇ、無法丸」
無法丸は無反応だ。
「あ」
縫が気づいた。
「そうだ、これを外さないと」
縫の指が艶かしく動くと無法丸の両耳から糸が抜け、元の形に戻った。
「これで聴こえるよ」
「いきなり縫うな。驚くだろ」
無法丸が言った。
「何だい、何だい。あたしがそうしなけりゃ今頃、二人ともあの女に殺されてたよ。お礼のひとつでも言って欲しいぐらいだね」
縫が頬を膨らます。
「いつだ…」
楽法が訊いた。
絞り出すような声。
「いつの間に縫った?」
「あたしが無法丸の頭で逆立ちしたときさ」
縫が答える。
「あの一瞬で…だと…」
楽法が絶句した。
「そうだよ」
縫は、しれっとしている。




