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縫が両手で自分の耳を塞ごうとした、瞬間。
「動くな!!」
楽法が怒鳴った。
ぴたりと無法丸と縫の動きが止まった。
楽法が曲調を穏やかに戻しつつ、二人に近寄ってくる。
「あなた方が、いったい何者なのかは知りませんが、今後の我らの『星の子』捜しに邪魔となることは必定。よって」
楽法が二人の前に立った。
演奏を止め、撥を逆手に構える。
「ここで死んでもらうとしましょう」
楽法はそう言って、まずは無法丸の顔を見た。
「?」
楽法は気づいた。
無法丸の両耳が内側へと折り畳まれていることに。
そしてそれが、元の場所へと戻らぬよう、銀色の糸で一切の隙間なく、ぴったりと顔と縫い合わされていると。
「何だと!?」
叫ぶと同時に退がろうとした楽法の右手前腕部を突如、動きだした無法丸の黒鞘の一撃が、すさまじい威力をもって叩き折った。
楽法が撥を落とす。
腕を折られながらも、楽法は飛び退がった。
無法丸と、にらみ合う。