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無法丸が縫を抱いたまま、間髪入れず崖の下へと飛び降りた。
「な!?」
これには楽法が驚きの声を上げ、崖の縁に駆け寄った。
下を覗き込む。
無法丸と縫は、銀糸を蜘蛛の巣状に崖の岩肌に貼りつけ、それを足場に下へ下へと降りていく。
「ふふふ。やりますね」
楽法が笑った。
背後を振り返る。
「美剣様!!」
呼びかけた。
「私はこのまま『星の子』を追いまする! 美剣様は、ゆるりとおいでくださいませ!」
そう言うと楽法は崖へと跳んだ。
鳥の羽のような身軽さで、縫の貼った糸を巧みに使って崖下に降りていく。
美剣が、それを見送った。
背後を向き、刀吉を伴っていずこかへと姿を消した。
その場には縫の糸によって拘束された蛇姫だけが残った。
「ぐうう…」
蛇姫は無法丸に受けた痛手と「星の子」を奪取し損ねた自分の不甲斐なさに、うめいた。
己が牙とくないを使い、何とか縫の糸を切ろうともがく。
ここはやはり屈辱ではあるが、一度、屋守翁と合流し再び敵に挑むしかない。
(次こそは…)
そう思った蛇姫の顔に突如、液体が滴り落ちた。
(雨か?)
頭上を見上げた蛇姫の顔前に、いつの間に現れたのか、巨大な二匹の犬の顔があった。
その口から滴ったよだれが、蛇姫の顔にかかっているのだ。
悲鳴を上げかけた蛇姫の耳に、女の声が聞こえてきた。