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楽法はそう続け、頭を下げた。
美剣は黙った。
何かを考え込むような様子も束の間。
「刀吉!!」
割れんばかりの大声で呼ばわった。
「ほーい、美剣様!!」
じっと美剣の横に控えていた小柄で筋肉質の男、刀吉が主に負けぬ大声で答えた。
美剣の左側へ走り、平伏する。
両手で持った大刀を頭の上に差し出し、そのままの姿勢で止まった。
美剣が腕組みを解き、太い左腕で刀吉の持つ大刀の鞘の中ほどをむんずと掴んだ。
軽々と持ち上げ、腰の左側に置き、柄を右手で握った。
腰を落とさぬ居合いの構えのような体勢である。
場の空気が一変した。
全員が瞬時に水の中に叩き込まれたかの如き圧迫感を受けた。
皆の首の後ろが、ちりちりとなり、優とトワの二人の少年たちは、がたがたと震えだす。
「気をつけろ!」
無法丸が少年たちに警告する。
刹那。
「大剣豪斬りっ!!」
美剣が咆哮した。
斬っ!!!
美剣の右手によって抜き放たれた大刀は神速の勢いをもって鞘走り、空間を斬り裂いた。
大刀の刀身は美剣たちの前で棒立ちとなっていた弐尾と忍びたちの首を楽々と何の抵抗も無く、はね飛ばした。
斬撃はそれだけにとどまらず、あろうことか、その剣気が衝撃波となって、刀が届かぬ位置に居た残りの忍びたちの身体と蛇姫が乗った大蛇の胴体をまるで紙細工の如く両断して見せた。
惨尾はたまたま地を這う体勢だったため難を逃れ、無法丸たちは予め攻撃を予見していたことと、衝撃波が進むほどに上へと昇っていったことが重なり、被害を受けずに済んだ。
このとき、優とトワが斬られぬようにと無法丸が二人を崖側に、やや押しやった。