59
「『星の子』は我らウロコ衆が将軍家の元へと連れていく! 横入りするな!!」
蛇姫が怒鳴った。
「はははは!」
楽法が笑った。
しかし、その間も両手に持った琵琶の演奏は止めない。
ゆっくりと落ち着いた音を奏で続けていた。
「こちらの『大剣豪』美剣様と私は将軍家の正式な命を受けし者。ウロコ衆などと」
楽法がウロコ衆たちを蔑みの眼差しで見た。
「今さら、干からびた亡霊ごときの出る幕ではないわ!」
この侮蔑にウロコ衆らは顔色を変えた。
「そやつらから始末しろ!!」
蛇姫が命じた。
美剣たちの近くに立つ忍びらと弐尾が、その下知に従う。
一斉に美剣たちに襲いかかる。
「今のうちに逃げる?」
縫が無法丸に訊いた。
「待て!」
無法丸が首を横に振る。
無法丸の眼は他の誰でもなく、仁王立ちしている美剣に向けられていた。
ウロコ衆の動きにも美剣は微動だにしない。
得物を振りかざした忍びたちが近づいたところで、楽法の琵琶の調子が変化した。
先ほどまでの、ゆっくりした曲調から激しくかき鳴らすような演奏へと。
楽法の吊り上がった細い眼が、弐尾と忍びたちの眼を順に見ていく。
そして。
楽法が口を開き、大声で言った。
「動くな!!」
弐尾と忍びたちの足が、ぴたりと止まった。
楽法の言葉に気圧されたのではない。