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甲冑は暗めの朱色で、兜の飾りは無く、無骨な佇まいであった。
全身から異常な闘気を発し、気の弱い者ならば、それだけで気絶しかねないほどだ。
武芸の心得のあるなしにかかわらず全員が、この人物こそが最大の危険であると、一瞬で本能的に感じとった。
甲冑の人物がウロコ衆のやや向こう辺りまで来たところで足を止め、その太い両腕を胸の前で組んだ。
「楽法」
甲冑の人物が、隣の琵琶を持つ女に言った。
年配の男の声だ。
楽法と呼ばれた女が、甲冑の男に軽く会釈した。
琵琶をゆっくりと小さな音で演奏しつつ、無法丸たちとウロコ衆に、よく通る何とも言えず美しい声で呼びかけた。
「我らは将軍家より、直々に『星の子』を連れ帰る命を受けし者なり!」
楽法が甲冑の男へと顔を向ける。
「こちらは都では知らぬ者は無き、この日の本最強の侍『大剣豪』美剣様!」
大音声でそう言った後、楽法は無法丸たちへと、ぺこりと頭を下げた。
「私は、その補佐を仰せつかった楽士、楽法と申します」
楽法の視線が皆を見回し、優と抱き合うトワのところで止まった。
「そちらの『星の子』を我らに引き渡していただきたい」
楽法が言った。
これに真っ先に反応したのは、蛇姫だった。
大蛇の向きを楽法へと向ける。




