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中央から大蛇に乗った蛇姫、その左右に弐尾、惨尾、さらに外側で刀を構える二十人の忍びたち。
無法丸が大きく息を吸い込み、体内で気を練った。
縫は両手を胸の前に出し、構える。
優はさらにトワを強く抱き寄せ、トワも優に身を寄せた。
ウロコ衆の包囲が四人を攻撃できる位置まで狭まった、そのとき。
琵琶の音が突然、鳴り響いた。
その場の全員が、はっとなった。
皆が音の出所、先ほど通った森へと視線を向けた。
すでに陽は落ち、辺りは薄闇に包まれている。
優しい月明かりの中を三つの影が、こちらへ歩いてくるのが見えた。
左に小さな影。
中央に大柄な人影。
最後に右側に、二つの影の中間ほどの大きさの影。
影たちが、その姿を現した。
右側の影は歳が三十前後の女だった。
赤と黒の二色に染められた着物に身を包んでいる。
腰までの黒髪。
吊り上がりぎみの両眼は鋭い。
両手で琵琶を持ち、ゆったりとした曲を奏でていた。
「!?」
無法丸が顔を曇らせる。
「鼻で息をするな」
優とトワと縫に、小声で促した。
いつの間にか、辺りに華の香りのような、かぐわしい匂いが漂っていた。
左端は小柄な若い男。
足軽とも雑兵ともつかないなりで、やたらと大きな団子鼻だ。
小柄ではあるが身体はひどく筋肉質で、刀身の太さも長さも通常の三倍はあろうかという刀を立派な意匠を施した鞘に納め、両手で抱えている。
そして、誰よりも皆の注意を引いたのは、中央に立つ大柄な人物であった。
頭の先から、つま先まで完全なる戦装束、具足を身に着け、頬当てもしているため、性別すら定かには判別できない。