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カーミラの右瞼が、ぴくぴくと怒りで痙攣した。
「む」
カーミラが声を発した。
気づいたのだ。
これ以上は、この場に留まれないと。
「『星の子』よ」
カーミラがトワに声をかける。
「次に遭うときは必ず、お前を我が物にしてみせるぞ」
そう言うとカーミラとケルベロスは無法丸たちに背を向け、一目散に姿を消した。
「ありゃりゃ?」
縫が言った。
「何で諦めた?」
縫の言葉に無法丸は答えない。
東の空から昇った朝日の光が森の中へと差し込み、無法丸たちを優しく照らした。
荘厳かつ、豪快な勢いをもって注ぎ込む滝を一望できる檜舞台。
昼間であった。
優美な着物姿で、しなやかに舞う一人の男。
二十代後半ほどか。
華奢で中性的な雰囲気である。
胸元まである真っ直ぐな黒髪、美しく整った顔。
右手には扇を持ち、ゆったりとした動きの中で要所要所、開き閉じをして見せる。
それもまた、この舞踊に組み込まれた何ともいえぬ美しい振り付けなのであった。