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(抜くか…)
迷っていた。
この窮地を脱するには、それが良いと頭では分かっている。
しかし。
踏ん切りがつかない。
かつて共に過ごした日向の顔が、頭の中でちらついた。
(これだけ追い詰められても俺は…)
無法丸は唇を噛んだ。
「無法丸!!」
縫が叫ぶ。
動かぬ無法丸を見かねて、縫が前へ出た。
無謀だとしても活路を開くしかない。
「はっ」
カーミラが笑った。
「女。お前から死ね!」
カーミラの触手が無法丸から縫へと目標を変えた。
四本の刃が縫に殺到する。
常に飄々としている縫の顔が歪んだ。
だが、無法丸は自らへの攻撃が止んだ隙を見逃さなかった。
息を深く吸い、気を練る。
同時に腰を落とした。
そして。
四本の刃が縫の身体を斬り刻むかと思われた、その瞬間。
無法丸の身体が弾丸の如き速さで跳んだ。
振り下ろされた刀の黒鞘が四本の刃を次々と捉え、すべて粉々に打ち砕く。
無法丸が縫の前に着地する。
「あざっす」
縫が無法丸に片眼をぱちりと閉じて見せた。
「こしゃくな!」
カーミラが怒りの声を上げる。
が。
無法丸が移動したことで、がら空きとなった優とトワを見るや、にやーっと笑った。
無法丸に砕かれた部分以外の残った触手が、今度は二人の少年たちに突進する。
「くっ!」と無法丸。
もう、二人を守るのは間に合わない。