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無法丸が後ろから、その身体を支え、両手で抱き上げる。
そのまま速度を落とさず、四人は森へと入った。
優がトワを心配してか、無法丸の横へと、ぴたりとついて走る。
優はなかなか健脚だが、これ以上速く走れば、すぐにへばってしまうだろう。
「どうする?」
無法丸が訊いた。
後方の気配は、さらに近づいてくる。
森のすぐそばまで来ていた。
「こうするのさ」
縫が両腕を広げ、両拳を後ろに向けた。
縫の掌中から、無数の銀色の糸が疾った。
糸は周りの木々に巻きつき、蜘蛛の巣のように張り巡らされる。
これでは糸に触れない限り、追手は進めない。
「魔糸の巣」
縫が得意げに言った。
「お前はいったい…?」と無法丸。
「さあさあ、とっとと逃げるよ! 逃げ切ったら、あたしと無法丸はしっぽりと」
無法丸が走り去る。
優も慌てて、ついていく。
「こらー!!」
残された縫が怒鳴った。
「む」
カーミラが言った。
前方の木々に銀色の糸が張り巡らされているのをその赤い瞳は見逃さなかった。
「何じゃ、これは?」
ケルベロスを止め、地面へと降りる。
右手で、そっと糸に触れた。
硬い。
まるで鋼糸のようだ。
さすがのケルベロスも、この中にそのまま突っ込んでは無傷ではいられない。
「こしゃくな奴らめ」
カーミラが、いらだった。