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「これでしばらくは人を襲わずに済む。効き目が切れた後は…お前たち次第」
詩音が言った。
今度はお龍のそばへ移り、虎造にしたことをそっくり繰り返した。
虎造とお龍の身体は痙攣を続けたが、その間にみるみるうちに全身の傷が元に戻り、回復していった。
致命の傷さえも塞がっていく。
二人の眼の焦点が定まり、両手を地面につき、上半身を上げた。
「こいつは…?」
虎造が言った。
「助かったのかい?」
お龍は驚きの表情を隠せない。
「お前たち」
詩音が地に伏せた二人に声をかけた。
二人が詩音を見上げる。
「これだけは言っておく。日の光を浴びてはならない。瞬く間に身体が崩れ、一度は逃れた死の運命が、お前たちを捕まえるだろう」
そう言うと詩音は、しずしずと歩きだし、徐々に晴れ始めている霧の中へと姿を消した。
「何なんだ、いったい…」
虎造が言った。
立ち上がり、お龍の手を取って立たせる。
「虎、どうする?」とお龍。
「そうだな…」
虎造は思案した。
「とりあえず、やらなきゃならねえことは決まったな」
にやりと笑う。
「あのカーミラとかいう女を一発ぶん殴るんだろ?」
お龍が、ふふんと笑った。
「あたぼうよ」
虎造が大きく頷いた。
無法丸は気づいた。
後方より追いすがってくる異様な気配を。