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二人は、お互いに右手を伸ばし握り合っていた。
「りゅ…う…」
「と…ら…」
二人が微かな声で呼び合った。
このままいけば、さほどの時はかからず二人は死ぬだろう。
詩音が深いため息をついた。
「私と同じ苦しみを与えるのが良いことなのか」
その声は沈んでいる。
「私は、この華のおかげで」
帯の上の大輪の華を見つめる。
「人の血を吸う欲望は抑え込めるゆえ、まだ苦しみはましというものだが」
詩音が二人に近づき、そばに腰を下ろした。
「やはり、このような悲劇をこのまま放っておくのは忍びない」
詩音が、そう言って大きく口を開いた。
二本の犬歯が長い。
詩音の栗色の瞳が、一瞬で赤く染まった。
瀕死の虎造の首筋に詩音が噛みつき、二本の牙を肌に沈めた。
虎造の虚ろだった瞳が赤く輝き、全身が、がくがくと震えだす。
詩音が口を離し、帯の上の赤い華から花びらを一枚ちぎった。
虎造の口の中へと入れる。