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「虎っ!!」
磔にされたままの虎造が首を回し、お龍へと横顔を見せた。
「龍っ!! 俺に構うな!逃げろ!」
虎造が叫ぶ。
お龍は唇を噛みしめ涙を振り払い、もう一度、虎造に背を向けた。
お龍の眼の前に、いつの間に回り込んだのか、巨大な双頭の犬が立っていた。
よだれを垂らす二つの頭が低いうなり声をあげる。
四つの赤い眼が、ぎろりとお龍をにらんだ。
「どうやら」
お龍が言った。
「逃がしちゃもらえないようだぜ」
ドスを構える。
「殺れ、ケルベロス」
女が命じた。
双頭の犬、ケルベロスが咆哮した。
「龍っ!!」
虎造が叫ぶ。
その両眼には涙が流れていた。
首を回し、何とか背後を振り返ろうとするが、串刺しの四肢のために動けない。
虎造の背後ではケルベロスに散々、噛みつかれ、ぼろ布のようになったお龍が倒れていた。
血だまりの中で動かない。
「龍っ!! 死ぬんじゃねぇ!!」
虎造の叫びにお龍の身体が、ぴくりと反応した。
がくがくと震えつつ血まみれの顔を上げ、右手を虎造へと伸ばした。
「と…ら…」
微かに消え入りそうな声で言った。
「うおおおおっ!!」
虎造が吼えた。
黒衣の女へと顔を向け、鬼の形相でにらみつける。
「ぶっ殺してやるっ!!」
自分の四肢が、血を吹き出すのも構わず動こうとする。
「ほう」
女が驚嘆した。