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「ああ」と虎造。
首を傾げる。
「どう見ても化け物だな。何が起こってやがるのか…」
二人の前方の霧に、二つの影が現れた。
ひとつは虎造よりも、ひと回り大きな影。
もうひとつは女の影だった。
虎造とお龍が十人と戦い始めるのと、ほぼ同じ時。
見つめ合っていた無法丸と縫も同時に異変に気づいた。
無法丸は鎖の巻かれた刀を掴み、立ち上がった。
縫も続いて立つ。
「優! トワ! 起きろ!」
無法丸が怒鳴った。
二人が、びくっとなって寝惚け眼をこする。
無法丸が部屋の障子へと、一歩踏みだした瞬間。
障子を突き破り、何者かが部屋に侵入してきた。
一人の女だ。
無法丸は、この女に見覚えがあった。
この宿の仲居だ。
部屋への案内をし、食事を運んでくれた。
常に、にこにことして感じが良い娘だったが。
今は明らかに様子がおかしかった。
肌の色が死人のように青白い。
牙をむき、鋭い爪を突き出し、低く唸っている。




