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女の口が男の耳に囁く。
「優…トワ…助けて…」
女が震える手を上げ、前方を指した。
「この先か!?」
男が訊いた。
女が弱々しく頷く。
そして倒れ、それきり動かなくなった。
男は無言で踵を返すと、猛烈な勢いで闇へと向けて走りだした。
短い草がびっしりと生えた草原を二人の少年が走っていた。
二人とも十代の前半といったところか。
「トワ、まだ走れるか!?」
前を走る日焼けした少年が、手を引いている後ろの少年に声をかけた。
トワと呼ばれた少年が頷く。
トワは変わった外見をしていた。
まずは肌が雪のように白い。
肩まである髪の毛、そして眉毛は金色だった。
髪の中から外へ出た耳は先が長く、やや上に尖っている。
整った美しい両の瞳は鮮やかな青色だった。
先導する少年に比べると華奢で、娘のようにさえ見える。
二人は草原の先にある、なだらかな丘へ向かって走っていく。
丘の上には大きな一本の木が立ち、立派な枝を広げていた。