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その口は真一文字に結ばれ、顔は紙のように白かったが、涙はこぼさなかった。
ただ、瞳を閉じた縫の顔をじっと見つめていた。
無法丸たちの背後では、美剣の遺体に被さり号泣している刀吉と、その側に立つ楽法が居た。
刀吉は涙を拭った。
鼻水は、そのままだ。
「美剣様、帰るだーよ」
刀吉は小さな身体を這わせ、美剣の遺体の下へと潜り込んだ。
そして、自分の何倍もの体躯を持つ、しかも重い具足を着けた美剣を「えいや!」と一気に持ち上げた。
尋常ではない怪力であった。
「ほい、ほい!」
かけ声と共に刀吉が美剣の遺体を担ぎ、走りだす。
無法丸たちとは反対側の野道の先へと消えていった。
「無法丸」
楽法が言った。
「我らを退けたとて、将軍家は諦めぬ。また別の猛者が現れる。今からでも遅くない。『星の子』を私にお渡しなさい」
黙って縫の顔を見つめていた無法丸が口を開いた。
「それ以上、喋ったら」
無法丸から、すさまじい殺気が自分に向けられているのを感じ、楽法はぞっとなった。
「女だろうと何だろうと、お前を殺す」
楽法は悔しげに唇を噛み、刀吉が消えた道へと去っていった。
無法丸と泣きじゃくる二人の少年は、しばらくその場に留まっていたが、やがて立ち上がり歩きだした。




