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その姿を見るやいなや、カーミラは無法丸側でも龍虎側でもない方向へと丘を駆け降り始めた。
黒ドレスの裾が、めくれ上がるのもかわまぬ疾走だ。
龍虎も走りだした。
「逃がすかよ!!」
虎造とお龍が、ひとつの口で同時に叫んだ。
無法丸が跳んだ。
今の無法丸と美剣の距離は、美剣の大刀が届くか届かぬかの間合い。
無法丸が攻撃するためには、一気に距離を詰める必要がある。
弾丸の如く跳んだ無法丸は刀を右腕で振りかぶり、一直線で美剣へと迫った。
美剣の兜に黒塗りの鞘を振り下ろす。
体内で練り上げた気は右肘の辺りに進み、美剣の頭に鞘が当たる瞬間に刀身へと伝わる。
「うおおおおっ!!」
無法丸が咆哮した。
美剣の兜ごと頭を叩き潰す渾身の一撃。
美剣の兜と頬当ての隙間の両眼が、すさまじい殺気と共に強烈に輝いた。
「大剣豪斬りっ!!」
斬っ!!
気迫と共に抜き放たれた大刀はトワに被害が及ばぬ配慮のため、空中に居る無法丸に下方から襲いかかり。
次の瞬間。
無法丸の右腕を肘の部分で切断した。
練り上げた気は行き場を失い、刀を持った前腕部が離れていく。
無法丸の感覚は不思議と、ゆっくり流れた。
全てが遅くなった。
いや、無法丸の知覚のみが先走っているのか?
(これが死ぬ直前というやつか?)
無法丸は思った。




