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無法丸は己の刀を見つめた。
最後になるかもしれないというのに、やはり、鞘から抜く気にならなかった。
力を使えば日向を二度失う。
そんな思いがした。
(こんな中途半端な気持ちで、奴を倒せるのか?)
そんな考えが頭をよぎった。
自分はただ、死に場所を求めて捨てばちになっているだけではないのか?
背後に居る縫の顔が、ふいに浮かんだ。
「何も考えるな」と言って繋がってくれた縫。
(俺は、また生きたいと思い始めている)
まずは雑念を消した。
最大の気を練り、黒鞘に乗せ、美剣を倒す。
優とトワのために。
そして。
縫のために。
いや、縫が好きだと言ってくれた自分自身のために。
生きる。
無法丸と美剣、二人の闘気が膨れ上がり、ぶつかり、渦巻いた。
一瞬の後には、剣士二人の戦いに決着がつくだろう。
このとき、野道で向かい合う無法丸と美剣を見下ろせる小高い丘の上に、一人の美しい女が立っていた。
カーミラである。




