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だが、十日目の夜。
人通りの無い夜の野道で、ついに行く手を阻まれた。
「大剣豪」美剣と楽法、そして太刀持ちの刀吉にである。
別の道で先回りされたか。
「無法丸とやら!」
美剣が呼ばわった。
無法丸の名は楽法から聞いたのだろう。
その楽法は右手に包帯を巻き、副え木を当てている。
「この美剣と正々堂々と剣で勝負せよ! お前だけが、わしを楽しませてくれそうだ!」
美剣が前へと出た。
仁王立ちで両腕を胸の前で組んでいる。
「逃げる?」
縫が無法丸に訊いた。
「いや」
無法丸が首を横に振る。
「今、背を見せたら確実に斬られる」
「やんの?」と縫。
「ああ、やる」と無法丸。
ここで縫に耳打ちした。
「縫、俺が美剣と戦い始めたら、二人を連れて逃げろ」
縫が無法丸を見つめた。
「死ぬ気じゃないだろうね?」
縫が訊く。
「死ぬ気でやって勝てるかどうかだな」
無法丸が答える。
「優とトワを頼む」
縫は答えない。




