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「………」
「顔は平気にしてても、心が泣いてるようにね」
縫の猫のような眼が月明かりを集め輝いた。
「何も考えなくていい」
「………」
縫が無法丸に顔を近づけ、口づけした。
「あんたがあたしを抱くだけじゃない。あたしもあんたを抱くんだよ」
縫が自分の着物の上をするりとはだけ、胸を露にした。
白い肌が美しい。
続いて縫が、無法丸の胸元を脱がせた。
無法丸は縫に抗わなかった。
自分でも不思議だった。
いつも馬鹿ばかりを言う縫の言葉が、今は何故か心に染みた。
縫が自分の形の良い双丘を無法丸の細身だが筋肉質な胸に当てた。
無法丸は驚いた。
日向が死んでから全くそんな気持ちにならず、誰にも反応しなかった自分の身体が、男としての猛々しさを見せたからだ。
縫が今一度、無法丸に口づけした。
「縫」
無法丸が言った。
少し震えた声。
「しー」
縫が今度は、自分の唇の前に人差し指を立てた。
「こうなったからには」
微笑んだ。
「女に恥をかかせるもんじゃないよ」
二人の影が月明かりの中で、ひとつに重なった。
次の日、優が回復するのを待って、無法丸たちは旅を再開した。
トワが行きたがる方角へと道を進んだ。
野宿や民家の納屋を借りるなど、なるべく人と関わらないように細心の注意を払った。
九日間は何も無かった。




