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自分が今、生きていて幸せだと実感できないのだろうか?
無法丸は希に、己が戦場を泣きながら歩く幼子だったときの夢を見る。
本当の記憶なのか、勝手に頭が造りだしたものなのかは分からない。
ただただ、泣きながら戦場をさ迷う夢だ。
(俺はあの頃と何も変わっていない。ずっと満たされず、泣き続ける子供だ)
無法丸は思った。
優はトワを守ると言う。
武芸の「ぶ」の字も知らぬ村の子供である優が、命を懸けてトワを愛している。
トワも優を愛している。
二人の心には、自分や日向のような穴は空いていないのだろうか?
愛で満たされ、幸せを感じているのだろうか?
日向を失い、脱け殻のような自分が、生きているようで死んでいるに等しい自分が、せめて二人の愛だけは守ってやりたい。
無法丸は、そう思った。
無法丸は眼を開けた。
そこには当然のように縫の笑顔があった。
川沿いに打ち捨てられた水車小屋。
気絶した優を運び込み、夜まで休んでいた。




