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自分の心の穴については考えなかった。
どうすれば良いのか分からず、それに向き合うのも何やら恐ろしかったからだ。
二年が過ぎた。
事件が起こった。
日向が己の技量を越えた魔剣を打ったのだ。
早く心の穴を埋めたいという焦りからの無謀な賭けであった。
日向は無法丸への想いと自らの名を現す魔力を込めた刀を残して、命を落とした。
無法丸は独りに戻った。
旅に出ると、いくつもの争いの中で無法丸は日向の刀を振るった。
しかし日向が未熟な技量で打った刀は鞘から抜けば、その一度で消えてしまう。
日向との繋がりが全て無くなるようで、無法丸は刀が抜けなかった。
無法丸は己の流儀に従って、旅の先々で人々を助けた。
善人の義憤や信念と共に戦い、悪人の身勝手な野望、非道を叩き潰した。
しかし、そこに無法丸自身の夢や願望は無かった。
いつも他人の何かに寄り添い生きていた。
だから心の穴は埋まらないのだろうか?




