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男は気を練り、剣撃を強化する特殊な技を会得していた。
男が無法丸の面倒を見たのは、幼い孤児を不憫に思ったからではない。
己の技を一代で絶えさせないために、単純に後継者を捜していたに過ぎなかった。
男は無法丸に厳しい稽古をつけた。
無法丸に少しでも才能が無いと分かったなら、男は平気で幼子を置き去りにし、いずこかで他の子供を鍛え始めただろう。
幸いにも無法丸は剣術と練気の技、両方ともに非凡な才気を発揮した。
真綿が水を吸い込むように、男の技を覚えていった。
二人の間には最低限の言葉と、武芸に関する会話しか交わされなかった。
そこには、何の感情も存在しない。
男は無法丸に名さえつけずに「お前」と呼んだ。
自分の名も教えず、ただ「師匠」と呼ばせた。
男にとっては己の作り上げた技と、その伝承こそが全てだった。
流派の名すら決めなかった。
無法丸が十歳になると、男の技術を全てものにしていた。
男は満足した。




