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が、その足が途中で止まった。
様子がおかしい。
忍びたちの瞳は虚ろで、両手を前に突きだし、足の運びもぎこちない。
(何じゃ、これは?)
困惑する屋守翁の身体を突然、背後から現れた無数の蛇のような触手が、首から上だけを残し、ぐるぐる巻きにした。
完全に動きを封じられた。
屋守翁は背後に何者かの気配を感じた。
「こんな老いぼれの血でも、吸わぬよりはましじゃろう。探しものに人手も要るしな」
耳元で女の声がした。
次の瞬間、屋守翁の首筋に火箸で突き刺されたような痛みと熱さが走った。
続いて、全身が急激に冷たくなっていく感覚。
屋守翁のウロコ衆頭領としての人生は終わった。
屋守翁の血を吸い、操り人形とした女、カーミラは新たに下僕となったウロコ衆たちに命令した。
「わらわが天井に穴を空けられ、なおかつ崩落せぬ頑強さを兼ね備えた洞窟を見つけるのじゃ。急げ」
それまでふらふらと所在なさげにしていた忍びたちが、本来の動きを発揮し、一斉に散っていった。
もちろん、屋守翁の姿もない。
それを見送ったカーミラは満足そうな笑みを浮かべた。
無法丸は孤児であった。
物心つくかつかぬかの頃に、戦で両親を失った。
ゆえに己の名すら知らなかった。
さまよう無法丸を保護し育てたのは、旅の剣術使いの男であった。




