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「姿を消しているだけだ」
無法丸が縫に教えた。
「忍びや化け物や将軍家の次は、不思議な技を使う謎の女ってわけ? まったく、面倒だねぇ」
縫が不平をこぼした。
川沿いの渓谷に逃れ、その身を隠していた屋守翁は、夜の訪れと共に動きだした。
危うく死ぬところだったが、自らの尾を切り離す技によって難を逃れた。
手下が何人死のうとも、頭領である自分さえ生きていれば、ウロコ衆は滅びない。
生き残った者たちや蛇姫と合流できれば何とかなる。
もう一度、陣容を再編し「星の子」奪取の算段をつけるのだ。
月明かりの下、川の上流へと向かって進みながら、屋守翁は仲間たちの痕跡を探した。
しばらく進んだところで、十人ほどの人影を見つけた。
川沿いをふらふらと歩いている。
屋守翁は暗闇に眼を凝らした。
忍び装束の男たち。
優によって撃退されたウロコ衆たちである。
(こんなに早く出逢えるとは幸運じゃ)
屋守翁は喜び勇んで、忍びたちへと近づいた。




